オレ達の日常
122※sideY
数のみでこれからすぐに乗り込むと言う士龍を、俺は一旦諌めた。
結構昔は思案深い方だったのだが、東に感化されたのか。
この数で事務所を取囲んだら、通報されてさすがに警察も動くだろうし、捕まるのは勘弁してほしい。
士龍いわく、警察を動かしても、恋人が助かればと考えたらしいが、死なば諸共な考え方は、俺は好きではない。
東流には誠士に、防弾チョッキとかくすねてくるように電話させた。銃とか持っている可能性もある。そのへんの武装や用意していくのは当然だ。
それと、秘策。
「シロ、ヤクザさんも男だからね。女には油断するだろ?」
諭すように言うと、士龍は東流とは違ってそうだねーと言って話を聞こうとする。
まあ、昔の士龍はどっちかと言えば俺と似たタイプだったしな。
「ヤッちゃん、その作戦はいいけど、でも、女いないよ?」
ぐるっと回りを見回して、昔のように可愛らしくこてんと首をかしげる。
こんだけの人数集められる派閥のアタマにはとうてい思えない。
2年のころから、東の最大派閥でいつか襲ってくると言われていたので警戒はしていたが、全くそんな気配はなく逆に不気味だと思っていたのは覚えている。
襲ってくるどころか、近くをその派閥のヤツをみたことがなかった。周りを見回しても、知らないヤツらばかりだ。
「俺が女装する。自慢じゃねーけど、そこらの女よりイケてるぜ」
士龍は俺をマジマジと見つめて、ぽんと手を叩いた。
「そか、ヤッちゃん綺麗だもんね」
邪気のない笑顔で言われると、すっかり毒気をぬかれる。
小学生の時は姿形も天使の様で微笑みは最高に天使だったけど、いまでもその笑顔だけは健在のようである。
「シロの昔の可愛さには負けるけど、任せておけ。美人局作戦だ、滅多に女装なんかしないんだからな」
「そうだよね。ヤッちゃん、イケメンだもんね」
おまえこそ、十分イケメンになっちまったよなと、思いながら
俺は、東流のおふくろさんに服を借りに一旦店に戻ることにした。
「まあ、あの橘病院のシロちゃんが?」
東流のおふくろさんと双子に襲撃じゃなかったことと、事情を話して、夜の仕事用の服を借りて着替えている。
「すげえ背が高くてイケメンになってたよ」
「ヤッちゃん、ブラジャーちゃんとつけてね。女は胸が命よ!」
おふくろさんは妙にパリパリと張り切っている。
胸にパッドをつめて、ひらひらした服を着ると、化粧道具を借りる。
「ダメダメ、ヤッちゃん。ヤクザの人向けの化粧じゃなきゃね。それじゃ清楚すぎるわ」
パタパタと少し濃すぎるかなと思うような化粧を施してくれる。さすが、ヤクザの嫁。それに長いこと夜の仕事をしてきただけある。
オヤジさんの関係のひともよく来るだろうしな。
「やっぱり、ヤッちゃん、すんげー美人ー」
北羅の素直な言葉になんだか気分がよくなる。
作戦通りにいけば、被害も警察もこないうちになんとかできるかな。
俺は、おふくろさんに渡されたヒールなしの靴を履くと、再度東流たちのいる空き地へと戻った。
「ヤベェ、ヤス、マジ綺麗だな。マジすげー美女!!やべーなー、なんか緊張する!」
空き地へ戻ってきた途端に、東流は北羅以上に大絶賛してくれる。
キラキラした目をこちらに向けられると、これはこれでアリかもしれないと思う。やっぱり東流の美的感覚はヤクザさんと同じらしいので、少しくらいケバい、大人な女が好みなのかもしれない。
前に女装した時は、清純派なのを意識したんだけど、間違いだったかな。
そんなに恋人を褒めちぎるとか、周りからみられるとちょっと恥ずかしい。
まあ、嬉しいけどな。
暫くして誠士がバイクでやってくると、装備を入れた袋を担いで周りをうへえと見回しながらやってくる。
「東流、マジで東高ばっかじゃん。つか、康史、マジで女装とか、びびるんですけど」
袋を東流に手渡して、肩をそびやかせて誠士は、じっと士龍を見返す。
「同小だった、シロ。こっちは中学からのダチのセージ」
「野口誠士っす、シロ?でいいのかな?」
誠士は安心したように、士龍に笑顔を向ける。
「シロでいーよ。えっと、俺は真壁士龍、シロって、昔からトール君によばれてた。セージ君は空手強いんだっけ、有名だよね。インターホンがんばってね!!」
インターハイだろ。アタマいいのに、ぬけさくなとこは変わってないようだ。和製英語は苦手なんかな。
誠士も思わず吹き出しながら握手をしている。
「東の真壁って、シロのことでしょ。なに?天然??」
「士龍さんは、いろんなとこがお散歩して抜けてるんで気にしないでください」
士龍の仲間がフォローしているが、そういうぬけさくは変わらないんだな。
「ま、安心したわ。とりあえず、東流がヤリすぎないようにストッパーしたげて。康史一緒だから大丈夫だと思うけどね」
誠士が持ってきたチョッキを着る東流を見やり、女装じゃさすがに着れねーなと、チョッキを眺める。
「ヤスは着なくていい。俺が命に代えても撃たせねーから」
東流は胸を張って妙な自信で言い放つ。
つか、どっからその確信がでてくるんだろうな。いつもこいつの妙な自信にだけは、安心もするし、心強くもある。
「トールがそう言うなら、着ねーけど」
「とりあえず、突っ込んで近くのヤツに蹴り入れたら俺の背後に回れ」
ボソリと囁かれて、こくり頷く。
トールの背後ほど安全な場所はない。
「分かった」
総勢80人近くいると士龍は言っていたが、そんなに目立つことはできない。通報されたら最後だ。
この空き地も通報されかねないので、士龍に解散するように促した。
俺と東流と士龍、東流が独自の戦闘能力計測により見立てた使えそうなヤツ2人、合わせて5人で救出作戦を決行することにした。
士龍は、顔にはまったく出していないが、かなり焦っているようだ。
恋人が捕まってたら、やっぱり心配だし焦るよな。
焦りや感情顔に出さないのは、きっとイジメにあっていた時の癖だろう。
クオーターで天使のような顔をして、身体も小さく、日本語もカタコトに近く、イジメの格好の的になった。
自分にも経験があるが、感情を表情に出したら負けになる。
思わずぽんと士龍の肩をたたく。
「ツライなら、もっとツライ顔してもいいんだぜ?」
士龍はハッとしたように。ちょっと目を開いて俺を見返し、少しだけ眉を寄せて頷いた。
Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.