オレ達の日常

123※sideY

とりあえず、中に入るまではうまく演技しないとな。
歩き方や仕草、女の動きをどこまで再現できるか。どこで誰が見ているかわからないしな。俺の場合は、もし見つかっても、波砂という隠れ蓑がある。

事務所につくと、野性的勘からか東流はカメラに映らないようドアの影に隠れ、他の3人もそれに倣ってカメラの死角をとる。
東高のヤツらだが、そういう戦いの勘だけはしっかりしているのは有難い。
俺はゆっくりとインターホンを押して、出来る限り女に聞こえるような裏声をつくり、マイクに向かって声を出した。
人を騙すことは、かなり慣れっこだ。散々外見のことて、持て囃されたり、反感を買ったり、自分すら騙さないと人とはうまくやってはいけなかった。
それでも、近くに東流がいたから、それほど酷い経験はしないで済んでいると思う。
こないだのことは、うろ覚えだしカウントしないことにしている。
まあ、記憶を無くしたことだって、俺が俺自身を騙しているだけの事に他ならない。
インターホンのカメラがカチリと音をたて、酷く掠れた低い男の声が聞こえた。

「え、ママの代わりに今月のみかじめ払いにきたんですけど」

少しだけ高い声を鼻にかけ、違和感がないように話す。
「あー。ちょいと待ちィ」
僅かに緊張の面持ちをするのは計算。
ドアが開く角度を確認すると、軽く脚を持ち上げて待つ。
開いた瞬間に、相手のアゴ先に脚をヒットさせて仰向けに転がせば中に入るまでの隙間を作れる。

東流が背後に引っ付いて身を隠してくる。

中の音を聞き逃さないように耳を澄まし、ガチッと鍵の回る音に俺は身体を斜めに入れ替え、
「ドコの店ェ、グワッ!!!っ!!」
皆まで言わせず、スキンヘッドの男のアゴ先にとんがった女ものの靴をヒットさせて、倒れるのを確認すると、股間にヒールを捻じ込ませる。
「ンだ、ゴルァー!!」
怒号があがる瞬間、ぐいと身体を押しやられて俺はトールの背後に回る。
ちらと視線をめぐらせると、あわせて、7人程度だ。プロとは言え、東流がこの数に負けるはずはない。
一気に流れ込んできた、スーツの男と柄シャツのを男を東流が薙ぎ倒すのを見やり、東流の背後を狙う男にドアの前に置いてあったモップを手にして、頭を殴って股間に蹴りを入れる。
士龍は、奥に縛られている男の方に名前を呼びながら向かっていった。

……マジか、恋人って男かよ。

意外に思いながら、響く銃声に目を見開く。
「士龍!!!」
悲鳴のような声があがり、二発目の銃声。
マズイ!!
と、思った瞬間に、銃を持つ男に東流が突進して腕をひねりあげるのが見える。
周りの男たちを、俺は動けないように縛り上げて、東流を狙おうとする男たちを他の2人に視線をやって囲むと一気に殴り倒す。

なんとか、カタをつけて周りを見回すと、士龍が倒れた床には、ダラダラと血が溢れ出していた。
防弾チョッキを着ているので、頭部をやられなければ大丈夫だと思うんだが、倒れている姿に焦りがつのる。
長いこと会っていなかったが、友達は友達だ。
俺の位置からは、駆け寄るにも少し距離があり、応戦中である。

「シロ大丈夫か?」

「脚やられた、……あるけなそう」
足ならなんとかなるか。
銃を放った男をボコボコにした後、東流は士龍に声をかけて、男を持っている縄ですかさず身体を拘束して、ぽいと無造作にほおりだした。俺は床に落ちている拳銃を蹴って遠くに飛ばす。
少しでも体力あるようなら、最後まで侮れない。
普通の高校生との喧嘩とは違う。

「テメェら、どこの組のもんだ」

息も絶え絶えの男を椅子の脚に固定する。しばらくは動けないだろうが、俺を指さして聞いてくる。
スカートが、少し汚れちまった。喧嘩しにいくことは伝えたけど、新しいのを買って返そう。

「3年B組。ほら、ダチが誘拐されたら助けにくるでしょ」

正確にはダチの大事な恋人ってとこだけど。
にっこり笑うと、後ろから、東流の声がする。
「ヤス、そっちは大丈夫か?」
「ヤクザにしては弱いね」
とりあえず、転がっている男たちを全部縛ったかを確認する。
「カツラとれてんぞ!」
ぱさりと士龍の手下から、カツラを手渡される。
「あ、さんきゅ」
銃声が響いてから約3分。そろそろケーサツとかきちまう、ヤバイかな。
「触ったもんは、残らず持って帰るぞ。証拠は残さないようにな」
とりあえず誠士に言われた通り手袋を嵌めてきたが。安全のため、士龍の血痕も持ってきたタオルでぬぐい去る。

「トール、そろそろ逃げないと!」
「分かってる」
トールに非常口を指さすと、ぐいっと俺の腕をつかんで引っ張る。

「おふたりさん、感動の再会は後にしてくれ、逃げるぞ。ケーサツくるから」
非常口を開けると足を怪我している士龍を囚われていた男が、肩に担いでいくのに振り返ってトールが声をかける。

真っ赤な髪の男は、よく見ても可愛くはなさそうだ。
とはいえ、さすがに俺には言われたくはないだろうな。

「康史、車もってきたぞ」

非常口の前で誠士は、俺に車のキーを渡す。
怪我人でる可能性もあったので、誠士に車をもってきてもらったのだ。
東流がシャツを破って士龍の足を止血してるのを見て、車の後部座席を開く。
「シロ、乗って」
脚をひきずっていて痛々しい。銃弾だし、痛いだけじゃないよな。
「ナオヤ、モトミヤ、アリガトな!」
士龍は声を自分の手下にかけている。こういうところは、上としても信頼できるってもんだ。
「トールはバイクで2人の護衛してやって。大丈夫とは思うけど」
どっかに、別働隊な組員がいないとも限らない。
「了解。送ったら帰る。したら、約束のデートしないとな」
そう言うと、心配そうに士龍たちを見つめる2人の背中を押すと、東流は俺に声をかける。

「ん。馬とかいろいろあるから楽しみにしてる」

わかったとバイクを置いた方へ向かうのを見やり、俺は運転席に乗り込んだ。









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