オレ達の日常
121※sideY
確かに、よくわからないがトラウマみたいなもんが心の中に出来てしまっているようだ。
東高の黒と赤のラインよに学ランを見るだけで背中がぞわりとする。
東流はああは言うけど、100人はさすがにキツイだろう。
近寄っていく空き地は、なんだかざわついていて黒山になっている。
まあ、逃げるわけにはいかねーしな。
東流は東高のヤツらがたまっている空き地を眺めて、さっと見回して、この人数を統べる男を野生の勘で特定したらしい。
こういうカンだけは東流は鋭いのだ。
指示をくだしているヤツらから、突っ立って報告を受けている金髪の男の方へずかずかと入り込んでいく。多分数を潰すよりは、最初にアタマを潰した方がいいという考えなのだろう。
金髪に向かって歩いていくトールの2歩後ろを、周りの動きに気を配りながら進む。
ざわりと戦闘態勢をとりながら、周りの男をたちは僅かに距離をおきながら俺たちをを囲む。
アタマと思われる金髪の男は身長はトールより少し高く、タレ目の甘ったるいマスクをしていて、女受けのよさそうなイケメンである。
こんなイケメンは記憶にはないから、多分俺を襲ったヤツらではなさそうだ。
これだけの人数を集められるヤツと言えば、東の人数最大派閥の真壁くらいだろうか。
有名なのに、俺らの前には姿を見せたことはなかったし、真壁派の奴もからんできたことはない。
金髪の男は東流の顔を見るなり、何故か嬉しそうに笑いながら、手を軽くあげて周りのヤツらを引かせる。
東流も何故かわかりやすく戦闘モードを解いて、相手に呼びかけ親しげになにやら話す。
なんだ?知り合い、か?
俺は不審に思いながらゆっくり2人に近づくと、金髪は俺の顔をじっと見つめて目を細め懐かしそうな顔をする。
「トール?知り合い?」
問いかけると、金髪のイケメンは少し俺に近づいて己を指さして、
「久しぶり、覚えてるかな?……ヤッちゃんだよね。俺シロだよ」
俺の昔の呼び名を呼んで、ふわふわと昔のように柔らかい表情で笑う。
シロ……?
あ、あ、そういや、こないだ東流が会ったって言ってたな。
俺と東流の共通の友達で、シロというのは小学のときのダチで、そのころはまるで絵画の天使のような美少年だった。
目の前にいるのは、少し日本人ばなれした背の高いイケメンである。
「シロ?!…………橘、士龍か?ちょ、でかくなったな!!」
小さくて可愛い美しい天使。それが、まさか見上げるほどでかくなっているとは。
クォーターでドイツの血が入ってはいたけど。
それにしても、士龍がこの集団のアタマなのか?
他には、みたところそれほど強そうな奴はいないし。
ちょっと照れたように笑みを浮かべて、昔のようにやんわりとした表情で言った。
「ああ、えっと、引越しするまえに、親が離婚したからね、今はかーちゃんの苗字で、真壁士龍だよ」
真壁。
東の最大派閥の真壁。
留年して2年を2回やっていて、実質トップの小倉でさえ手が出せないくらいで、裏のトップと呼ばれている。東高の半数は彼の派閥らしく、誠士もそいつには気をつけろと教えてくれてた、その真壁本人が、士龍だったのか。
確かにいままで、話は聞くがまったく顔を合わせたことがなかった。
もしかしたら、士龍は、コッチを避けてたのかもしれない。
「東高の真壁って、シロだったの?」
士龍とはトールと一緒にケンカにいったし、護身術をならったりしていた。
だったら恐れることはないのかな。見た感じまったく好戦的ではないようだし、ぬけさく天使だった昔と変わらない雰囲気だ。
「ヤッちゃん、記憶喪失なおったの?」
東流から聞いたのか、いきなり聞かれて驚く。
「全部、思い出せるわけじゃないけどね」
それにしても男らしくなったんだな、じいいと見上げてると、柔らかい表情で綺麗な笑みを返される。
なんだ、ドキッとしちまった。
「ヤクザにカチコミって、尋常じゃねーだろ、何があった?」
東流が俺らの間に入り込み、心配そうな表情で士龍を見ている。
どうやら、東流への報復ではなくこの人数でヤクザにかちこみにいくらしいのだ。
100人いたとしてもヤクザ相手としたら無謀だろ。
ギュッと拳を握って、士龍はひどく辛そうな表情をする。
「恋人を、拉致られた」
東流が思わず目を見開き、一瞬考え込む表情をしたが、ぽんと士龍の肩に手を置いた。
ダチが切羽詰った顔で命かけようとしているのを、東流がむざむざ見捨てる筈はない。
「……手ェ貸すぜ」
まあ、そうなるだろうな。
士龍にも恋人がいて、助けるために命かけようとしてるとか、ホントに背だけじゃなくて大きくなったんだよな。
周りを見回すと、他の連中が東流をみて心配そうな不安そうな顔をしている。
こんなに、人望があって周りからも大事にされてる様子をみると、小学生のときのダチだったとしてもなんだか嬉しい。
士龍は周りを1度見回してから、東流に素直に頭を下げた。
「トール君、頼む。手を貸してくれ」
大事な恋人をどうにかして取り戻したいと、士龍の言葉はその気持ちに溢れていて真剣だ。
たぶん、その気持ちは東流にはよく分かってるのだろう。
「俺はシロの幼馴染のトール君だ。そのカチコミ、参加すんよ」
東高は嫌いなので、かなりややこしいことになったなと思いながらも、まあ、俺も幼馴染みのピンチに手を貸そうとこころから思った。
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