オレ達の日常

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久々にかーちゃんの店に行くと、昼間だというのに、弟たちが夜の仕込みをしている。

「今日は早いんじゃね?学校は?」

双子の弟たちは、皿洗いをしながら店に入ってくる俺を見上げて、仕事の手を止める。
「お、トール兄。今日は、私立こーこーの受験日だからさ、休みなんだよー」
皿を拭きながら、弟の北羅はにこにことした表情で俺に返事をする。
うちには、私立を受ける余裕はないから、今日は休みってわけだ。
「オマエらいーのかあ?勉強しねーで、公立試験ももうすぐだろ?いつものように、サナミの替え玉できねーんだし」
北羅は、かなりの度合いで頭が弱いので勉強が苦手である。だから、双子の紗南とよく替え玉受検してるのを知っている。
「それが問題なんだよなー。かーちゃんの手伝い終わってから、漢字ドリルがんばるよ」
「まあ、名前書いとけば受かるだろ、キタラは東高受けるんだしよォ」
後ろで野菜を刻みながら、サナミが不服そうな顔をしている。
二人とも双子だけあって、二卵生でも顔や体格がそっくりだ。
黙っていれば見分けをつけるのが結構大変だが、表情を見れば大体わかる。
いつも、かなり不機嫌なほうが紗南だ。
「紗南は、北か南かな?」
康史はキッチンの方に歩きながら、紗南に問いかける。
「あ、今日はヤッちゃんも一緒だったのか。オレは南高受けるけど」
康史がいるときは、何故だか紗南も機嫌よくなる。
やっぱり、康史の顔には俺の家族は弱いらしい。
「あら、ヤッちゃんも来たの?なんか食べてく?」
奥からかーちゃんが出てきて、今日は働き手がいるからかかなり上機嫌で声をかける。

「あ、かーちゃん!!そうそう、ヤスが大学受かったからさ。祝いになんか食わせてよ」
「すっごいわね。さすが、わたしの鈴波の息子よねー」
かーちゃんは、康史のかーちゃんの親衛隊だっただけあって、康史に対しては身内びいきが激しい。
だからこそ、色々と親公認なんだろうけどな。
「お祝いの昼飯だしてくれ!」
俺がねだると、もちろんと言ってカウンターに座れと指をさす。
「北羅は東に行くのか」
心配そうな康史の表情に、俺もカウンターのまえに水を入れたコップを並べて肩を竦ませる。
俺の敵が多いから、多分北羅が行ったら格好の的になるだろう。
「センセがそこしかうからないっていうから、ほしゅーもたくさん受けたんだけど」
「キタラがアルファベットすら覚えらんねーから、仕方がねーだろ。セイハ兄だって教えるのさすがに投げたんだし」
紗南はため息をつきながら、炒飯を俺らの前に差し出す。
ホントに、これからが心配だな。
イジメにあっちまうだろうし、弱くはねーだろうけど、北羅は穏やかな性格なので、あまりケンカ好きではないのを知っている。
康史の炒飯には、お祝いなのか日の丸の旗がてっぺんに立っている。

「いただきます」

康史が食べ始め、俺は弟を心配しながらもうまい炒飯を食い始める。

「かけ算は7のだんがむずかしいんだよなー」

ぼそぼそと呟いている北羅かあたまは、常に小学生並みすぎる。
紗南と違って、そんなにケンカに明け暮れているようなヤツではなく、学校で補習ばかりしているが、まったく実になってない。

「紗南、醤油と玉子がキレちゃったから、ちょっと買いに行ってきて。たまごだからね、ケンカしてきたら、吊るすよ?ちゃんと割らないで持って帰ってきな」

かーちゃんは、康史にだけデザートのプリンを出して、紗南をおつかいに出す。

プリンかー、思わずいいなーと視線をやると、康史が少しすくって俺にアーンと突き出す。
思わず口を開く俺の頭を、かーちゃんはぐがんと拳で殴る。

「いてェ!!」

「まったく、イチャイチャしてるんじゃないよ。まったく、見てるわたしが恥ずかしい」

いーじゃねーかよ!

あーんとか、やってきたのは康史なんだし。

康史への身内びいきがひどすぎて、俺の扱いはいつものように雑だった。

炒飯も食い終わって、俺らは康史からプリンを口に運ばれて、キレかける母親に白い目でみられながらも屈せずにイチャイチャし続けていた。
すると、買い物に行ったはずの紗南が息を切らせて裏口から帰ってくる。

「トール兄、トール兄、最近、東高とモメたか?!」
かーちゃんに割れないように言われた玉子を、気にしながらスーパーの袋を渡して、紗南は俺に駆け寄ってくる。

そりゃ、な。

まあ、最近に始まったことはなく、いつもモメてはいたが。
「こないだ、ヤスに手を出されたから、30人くらいは轢き潰した」
正直に答えると、紗南は少し眉を寄せて、それはしかたがない全員殲滅だろうと呟き、同意のうなずきを返す。

「外に、50人以上東高の人がたむろして、他にもこのへん徘徊してんぜ。総勢100人くらいにはなるかも。あのさ、この店、割れてるんか?」
あれから店にきたのは今日が初めてだが、その前にもこの近くで西覇の元彼を襲ったヤツらをシメたしな。
情報ってやつはどこからでも漏れだすもんだし。

「店にきたとしたら、オレとキタラで潰すとして。数が多すぎだなァ。とーちゃん呼ぶ?」
紗南はやる気満々で、武器何にしようかなと、モップとかを引っ張りだしてくる。
北羅はふうと深く息を吐き出して、割れそうな食器類を片付け始める。
なんだかんだ、北羅も戦えばかなり戦力にはなるヤツである。

「オヤジは呼ぶな。めんどくせえことになる。外にいるのは、俺とヤスでなんとかすっから」

まあ、報復はあるかもしれねえなとは思ってたけど。かーちゃんの店はノーマークだったな。

たまたまこっちに帰っていて幸いだったかもしれない。
康史を見遣ると、少し唇を噛んで表情を硬くしている。
やなこと思い出してしまったかもしれないな。

あんだけ忘れろっで言ったのに。

「大丈夫だ。2人でいれば、最強だろ?」

耳元で囁くと康史は力強く頷いた。
100人だろうが、潰すだけの話しだ。問題はない。

「アンタ。ヤッちゃんを怪我させたら、トール、ただじゃおかないよ」
かーちゃんは、俺の肩を強くどんと押す。

「当たり前だ!」

俺は、康史を連れて警戒しながら外に出ると、紗南に告げられた近くの空地へと向かった。



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