オレ達の日常=SIDE Y=

70

トールが面倒そうな不機嫌な顔をするのが、明らかに目に見えて分かった。
誠士はふうっと息を吐き出して周りを見回し、隙を突いて逃げられるように逃走路を探している。
こういうところは潔く、抜け目がない。
「遊ぶのにはここは人が多いねェ、俺ァ引っ込み思案だからちょっと裏がいいかなァって思うンだけど、どう思う?」
ダルそうに他のやつらより一歩前に出ている相手の頭格ぽい長髪の男にトールは歩み寄って、首を傾げながら鋭い目で睨みあげてにっと人の悪い笑みを浮かべる。
「あっは、ハセガワ君がそんな殊勝な性格だったっけェ?」
「結構、控えめな性格のつもりだけどなァ」
トールは気にした様子もなく、神社の裏に回るように取り囲んでいた男達も気にせずずんずんと歩いていく。
男達もトールの後を追うようにずかずかと歩いていくので、周りの動きを気にしながら俺もトールの後について、神社の裏の林の中へと足を向ける。
誠士はその隙にささっと逃げ出したようだ。まあ、うまく立ち回れるし、万が一捕まっても弱いから逃げるわけじゃないから大丈夫だろう。
「正月早々、毎年ヒマだなァ、あんたら」
「そーゆー、オマエらも毎年同じ神社に初詣きてンじゃねえか」
ガサガサとすっかり枯れた落ち葉を踏みしめながら林の奥へとたどり着く。
「もーそろそろ、落ち着いてもいいんじゃねえかって話」
「そーね、ハセガワ君、最近丸くなったってウワサだけど、ソレってヒダカ君とデキちゃったからってもっぱら有名よ?」
まあ、学校でも外でも隠してないし、夏にあんなこともあったしな、と思いながらちらっとトールを見やると、案の定まったく気にしたような様子もなく、不思議そうにやつらを眺めている。
「まあな。喧嘩より愛にめざめちったのよ。おめえらと遊んでてもツマンネェなって話」
肯定ととれる返事をして、本気でつまらなそうに欠伸をして、トールはゆっくりと足を引いてどこからも隙のない体勢を作る。
因縁はどーでもいいことばかりだ。
東高は、俺らが中学の頃に潰してから明らかに目の敵にしている。
世代も変わってしまっているのに、そんな昔の話は水に流してくれねえかなとも思うが、そうはいかないらしい。

「だったら、早くその最強の称号を俺らに譲ってくれネエかなって、ホモ野郎にはいらねェだろ」
「最強ねェ、興味はねーんだけどさ、負けるのは絶対にイヤなんだよねェ」
拳をぐっと握り締めて、ぽんぽんと叩いてすっかり相手と応戦する気満々である。
仕方ねえな、逃げるつもりはなかったがこうなったらとことん応戦するしかない。
「ま、アイドルばりにこんな綺麗な顔が近くにあったら、変な気持ちにならねえでもないかもしれねえけどな」
「ふん、アイドルなんかと同じにすンなよ」
向かってきた男の頭にトールが拳を繰り出しながら、トールの背後から狙う男に俺は足を引っ掛けて蹴り倒した。
「あぶねェ」
「ヤスのが100倍カワイイんだからな」
ノロケられるのは嬉しかったが、微妙な言い回しに思わずズッコケたくなる。
って、何考えてンだろうな。
そんなことを言い出すトールの方が100倍カワイイなんて考えてしまいながら、トールの背後からの攻撃を防ごうと背中を向けて応戦する。
息があがる。
トールも体力はそんなに残ってねえだろうしな…。
「ノロケごっちそうさんって言っていいのか……くそ……」
頭格の男が見回すと、下のやつらは全部転がって伸びている。
トールの肩は軽くゆれてはいるが、まったく消耗した様子はない。

「運動にもなんねえな……俺たちが強くなりすぎちまったんかねえ」
腕をぐいっと伸ばして、長髪の男の肩をつかんでにっと笑みを刻む。
一発がつんと腹部へとつきいれて、放り捨てるように体を投げ出す。
丸くなんか、全くなってない気がする。

俺はトールの肩をぽんと叩いて、視線を合わせる。

「いくか…?」
「おー、あっけなかったなァ。思ったより」

少し拍子抜けしたようなトールの表情を見やって俺は軽く頷いた。
それが、事件の引き金になるとはまったく思っていなかった。
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