オレ達の日常=SIDE Y=

69

参拝してふっと気がつくと、隣にトールの姿はなかった。
あれだけ目立つ巨体である。ちょっと見回せばすぐに発見できるので、はぐれたからって焦ることはないのだが。
視線をぐるっと見渡すと、誠士と一緒にお札売り場に並んでいるようだ。
ほっとしながら、珍しいトコいくなあと思って自分も近寄り、ちょっと悩んだ末に「交通安全」のお守りを買う。
トールは運送業の仕事をするという。
だったら、これをプレゼントしたいなと思う。
「ヤス、ほらこれ買ったからよ、試験にもってけ」
ぐっと肩を掴まれて、紙袋に入ったお守りをぐっと掌に押し付けられた。
俺もトールに買ったのだが、先をこされてしまっていた。
紙袋からそっと取り出すと薄い緑色の布地に金で「学業成就」と文字がつづられている。
トールが俺を思って買ってくれたのかと思うと、それだけで涙が出そうになる。
「絶対試験に持ってくよ……ありがとう、トール」
「へへ、オマエが喜ぶなら、あげた甲斐あったぜ」
ちょっと胸を反らして嬉しそうに笑う笑顔がまぶしい。
「俺も、トールに……」
さっき買ったばかりのお守りを手渡すと、交通安全のお守りをじっと見て俺の肩を抱き寄せる。
「コレ、いつも持ち歩くぜ」
耳元で囁かれて、嬉しさでぶっとびそうになっている。

「ちょっと、ちょっとォ、二人でいちゃついてんじゃねーっての、俺の存在忘れてねえか?」
「あ、忘れてた」
すっかり誠士の存在を忘れていたのだが、誠士はかまわずに俺とトールにお守りの袋を渡してくる。
がさがさと中を見ると「安産祈願」である。
じっと眺めていたトールは、誠士を眺めて、
「さすがに俺うめねえよ?」
真面目な言葉で返すのに、俺は逆に驚いてトールを見返す。
もしも産めるとしたら、産んでくれるのだろうか。
ありえないが。
「だから祈願なんだろ?祈れば通じるかもしんねえじゃん」
誠士は、真面目な顔でトールに言う。
これは、アレだ。
トールを騙す気満々の顔である。
「なるほど………そうか。ヤス、子供ほしいか?」
真顔で聞かれて俺は、一瞬うろたえて、どうしたらいいのだろうと誠士を見るとニヤニヤと人の悪い顔をしている。
「まあ、トールとの子供ができるならな……」
「そっかァ、じゃあ祈っておくか。つか、俺が産むのかァ…」
ちょっと複雑そうな顔をするが、にっといつもの笑顔を俺に向ける。
「ま、ヤス、俺に任せておけ。できたら産んでやっからよ」
二つのお守りを持って不敵に笑う様子に、誠士は肩を震わせて笑うし、俺といえば、その言葉にあっけにとられていた。
もし、産めるっていうなら生んでくれる覚悟はあるってことなのか。
つか……ホントに……。
っていうか、できるわけないって……さすがに知っているよな……。
情弱すぎるトールのことだ、また自分だけが知らないことだと勝手に思っているのかもしれないが。

「アレ、ハセガワ君じゃないー。正月早々、あけましてー」

柄の悪い東高の連中が、ダボダボの服でかっこ悪いかっこで、俺たちをいつのまにか囲んでいた。
Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-