オレ達の日常=SIDE Y=

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新学期始まって直ぐの追試は、冬やすみ中勉強の成果があったようでトールは教師達の予想に反して余裕で突破することが出来た。

さすがにカンニングも疑われそうだったが、トールの性根がそんなことするくらいなら試験すら受けないことくらいわかっていたのか、教師達はトールの卒業を認めた。

大体が、トールは情弱ではあるがバカではない。
西覇の兄なだけあって、呑み込みはよく、一度覚えたことは忘れないし、脳みその回転も悪くはない。
だから、感謝の意味もこめて連休中に四国にいくと言い出したトールのことは、快く送り出した。
トールも髪の毛を黒く染めたので、ちょっと目つきが悪いくらいでそんな悪目立ちはしないだろうと考えた俺も、見通しは甘すぎなかったつもりだった。

たった一人でってわけでもなく、西覇がいるのだからと安心してたのもある。

だから、こんなことは予想していなかった。でも、髪を染めさせたり十分注意をさせたりとしてたのだ、ある意味、予想してはいたのかもしれない。

2泊3日で戻ってきたトールは、今、部屋で俺の足元で膝をついている。

「俺が……悪かった。油断してた」

多分、トールが言わなければ、気がつかなかったかもしれない。
でも、黙っているとか隠すとかそういうことはトールにはできない。

「ごめん、理解できねえ……トール、もう一回言って?」

屈辱的なことをもう一度言わせてしまおうなんて、俺は本当に意地が悪いと思う。性格が本当に悪いと思う。
事実に傷ついているのはトールの方だと、わかっているのに、キモチを抑え切れない。
本当に酷い人間だ。

「途中でからまれて……輪姦わされた……すまねえ…」

ガリガリと奥歯を噛みながら悔しそうに、両方の拳を握り締めて掠れた声で押し殺すように言葉を吐き出す。
トールのことだ、西覇を人質にとられたかなんかしたんだろう。
そんなこた、全然推測できる。
全然わかっているのに、頭がついていかない。
トールは、自分自身を俺のもんだと認めてくれているから、こうやって俺に詫びているんだ。

被害者は自分のほうなのに、その傷を抉るようなことも俺のためにしてみせている。

それで十分じゃないか。
それ以上、何を望むことがあるのだろう。
何もないはずなのに……。

俺は俺の中にある凶暴なものの実態を知ってしまっている。

「トール、全部服脱いで……。大丈夫、俺はトールを手放さないよ。ただ、ちゃんと罰は欲しいんだよね、トールは」

ただ赦してしまうのは簡単だけど、そのままだとそこには溝が出来る。
怒らないのは無関心と一緒だ。
だから……俺は醜い欲望をみせる。

俺を見上げながら、シャツを脱ぎ始めるトールの表情が僅かに緩んだのを見て、この選択は間違っていないことを知る。
手を伸ばして、染めた硬い髪をわしゃわしゃっと撫でる。
トールには罪はない。
だけどそれを、責めるのも、俺の愛だとわかってほしい。
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