オレ達の日常=SIDE Y=

67

どれくらい、意識を飛ばしていたか定かではないが、気がついたら俺の体は綺麗に拭かれていて、ヤスはすっかり身支度を整えていた。
「……トール、平気?」
気遣うような心配そうな表情は、俺の好きなヤスの顔だ。
「ン……やべえな……ぶっとんだ」
まだ、なんだか浮遊しているような感覚がある。
頭を二三回横に振るが、まだどっか麻痺しているような気もする。まったく覚えてねえけど、何回したんだろう。
「んー、すっげえエロエロな顔してたもんなー、トール。5回で我慢したけど…」
「ちょ、待て。5回で我慢って……十分だろうがよ」
腰にきているかと思ったが、運動器官も慣れてきたのかさほど痛みや倦怠感はなかった。
「あんな顔でねだられたら、我慢できないって。初詣もあるし、充分我慢した」
爽やかに言うヤスに俺はため息をついて、ベッドから降りる。
後処理は本当にぬかりなくやってくれるので、俺は散らばった服を着るだけでよさそうだ。
「って、初詣?」
「誠士が電話してきて、誘っただろ。覚えてない?」
「覚えてねえよ……いつだよ」
ヤスは俺の答えに、肩をそびやかして頬にちゅっと唇をくっつけてくる。
「トールがかわいく悶えてるとき」
いたずらっぽい表情を浮かべて、近くにあったバックを手にして俺を見返す。
つっても、初詣はいつも喧嘩で終わるもんだけどな……。
「…初詣って……どーせ、東高のやつらに絡まれるだけだろ」
服を着替え終わって、ヤスの肩に手を置くときゅっと握り返される。
「でも、合格祈願したいしなー」
「……そりゃ、祈らないとな」
俺もヤスの合格を祈願してやりてえしな。
神などに祈らんでも、合格はできるだろうけど、転ばぬ先の杖てきななんかは必要だろう。
「まあ、喧嘩はなるだけ避ける方向でいこうな」
ブーツを履き終えると、ヤスに腕を引かれて部屋の外へ出る。
「そりゃ、なるだけ……な。いつも別に好きでやってるわけでもねえんだけどなァ」
エレベータで降りてヤスは受付で金を払う。後で半分渡してやるかな。

「俺、運転できそうだけど……」
「帰りは、俺がするって言ったよ」
渡してあったキーをチェーンにひっかけてくるくると回しながら、ヤスは可愛い顔で笑って俺を見上げる。
「まあ…頭ン中、まだちょっとぼーっとしてるから、頼むわ」
そんな可愛い顔されちまうと、ついついそれに逆らうことができない。
薄暗い駐車場を歩きながら、バイクを探してタンデムへと跨る。
「トールに背中ひっつかれてるのって、滅多にないから嬉しいんだよね」
キーを差込みながら俺にヘルメットを手渡してくる。
振り返る笑顔がまた可愛い。
こんな顔されちゃあ、なんでも許してしまいたくなる。
「いつもの神社にも学問の神様とかっていんのか?」
「どこにでもいんじゃねえかな。そういうの良く分からないけどさ、祈っておけばいいかなって」
「そうだなー。神様だし、全知全能的なやつに決まってだろ、きっと」
ヘルメットをかぶって、ヤスの腰に腕を巻きつける。
そんなに強くじゃなく、腰に負担がかからないように少し加減をくわえる。
グオンと気筒の鳴る音がして、勢い良くバイクが坂道を発進して地上へと出る。
がっちりとはしてはいないが、均整のとれた綺麗な背中に胸板をくっつける。
密着感があったかくて心地いい。
荒々しく風を切る感覚がたまらなくなって、きゅっと腰を抱く腕に力をこめる。
やっべえな、幸せってやつだわ、コレ。きっと。
クリスマスからだけど、幸福感ってのがハンパねえ。
いや、その前からかなァ。

神社近くになると、華やかに着物を着たオンナや、ちょっと派手目の服をきた人たちが、破魔矢や札とかを手にして神社から戻ってきている。
神社前には、露店が立ち並んでいて、ちょっとしたお祭りみたいだ。
バイクを駐輪場へ停めると、ヤスは俺のヘルメットをはずそうと手をかけてくる。
自分でとれるのだが、とってもらうのもいいかもしれない。
「プレゼント、開けてるみたい」
「ぶ、俺の顔がプレゼントって、ちょっとねえべ」
タンデムを降りてヤスの肩を抱くと、ちょっとヤスの顔が緩んで笑みを返される。
「トールの顔は、ほかにないくらい男前だけどな。」
「口説いてるのか?」
「今更?……いつだって、口説いてるよ」
笑いながら俺の顔を覗き込む綺麗な顔つきに見蕩れてしまう。

「トール、康史おっせえぞ」
遠くから俺らを見つけてセージが駆け寄ってくる。
なんだかんだ、いつもの正月になってくる。

今年もきっといい年になるに違いない。


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