オレ達の日常

62

冬休みが始まってスグに実家に戻って、追試の勉強を続けていたが、ヤスから初日の出が見たいと連絡が入った。
バイクでヤスのマンションまで駆けつけると、エントランスまえでコートを着込んでメットをかぶって待っていた。
「トール、タンデム乗せてよ」
「あァ、構わねえけど……」
自分のバイクを出さないことに違和感を感じながら、タンデムに跨るヤスを見返すと、ちょっと照れたような表情を浮かべて、
「空気挟むのも、焦れったい時があるからさ」
腰に腕を回して、背中にひっつかれるのはスカジャンごしにも心地よい。軽く体重を預けてくる様子が本当に可愛らしい。
「久々だしな。クリスマス以来か、でかけんのも」
「そうだね。一週間くらい会ってなかったから、色々溜まってるしついでに姫始めもよろしく」
背中で物騒な言葉が聞こえるが、聞こえない振りをしてエンジンをふかす。
「ちゃんと掴まってろよ、埠頭がいいよな。日の出だったら」
ぎゅっと腰に回された腕の強さに肯定と受け取り、スロットル全開で走り出す。
毎年初詣では、いつも一緒に露店のある神社とかに行っていたので、日の出見ようなんて初めてかもしれない。
これから、ヤスとの初めてをイロイロしていこうと言った俺の言葉を律儀に覚えてるのだろう。
背中に当たるヤスの心臓の音が心地いい。
海に近寄るほどに強くなる、身体に感じる風圧もなにもかも、今までになく爽快な感じがする。
カーブの多い海岸線を走り、まだまだ暗い闇の中でスピードをあげてスリルを愉しむ。
怖がりはしないが、振り落とされないようにしがみついて力が込められる感覚に心臓が跳ね上がる。
俺だって、会えなかった期間、堪らなかった。慣れない勉強なんざして、苛々は募るし、弟も時間割いてくれてんだと思うとケツまくるわけにはいかない。
会いたくても我慢していたのは、俺も同じだ。
埠頭の手前のガードレール脇に停めて、メットを外してヤスを振り返って見やる。

「トール、飛ばし過ぎ。心臓もたねえよ」

ちっともビビってはいなかった癖に、メットを外して唇を尖らせて咎める口調で言うのがまた、可愛い。
「ケーサツにも追われなかったべ。……大丈夫か?」
手を差し出すと、ふっと綺麗な顔を緩めて花が咲くように笑顔を向ける。

「日の出まであと1時間ってとこかな」
Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-