オレ達の日常=SIDE Y=
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「やべェ……視界がまっきっきだぜ…」
ホテルをチェックアウトして、流石に体力を使い果たしたのかトールは俺の一歩後ろをだらだらと歩いている。
華やかな町並は、昨日よりは落ち着いているがクリスマス一色である。
「でも、トールが可愛くおねだりするから俺もやめられなかったし」
「……ンなこっぱずかしいことソトで言うンじゃねえよ」
耳まで赤く染めて焦っている様子は更にからかいたくなる。
元々感情は表に出やすいが、やけに最近照れたり恥ずかしがったりといった感情も出やすくなっているように思う。
「手、繋ぎたいな……」
人目がつくようなところでは、きっとしてくれないだろうという確信があったが、足を止め振り返るとトールは無言でぐいっと俺の腕を掴み、自分のコートのポケットに突っ込ませて手を握ってきた。
マジか……。
本当に欲張りになってしまいそうだ。
「ンだよォ……ほら、いくぜ」
手から温かい熱が這い上がってきて、全身が火照る。
つか、それ、カッコ良すぎだろ。トール。
初恋っつーのは、ホントに厄介だ。鼓動が止まらなくなるくらいドキドキと早鐘を打っている。
このまま地面に押し倒して、やっちまいたいくらいだ。
本当にここが自宅だったら、有無をいわさずやっちまうのになあと、不謹慎なことを考えながら歩いていた。
その時だった、グオーンと音をたてて黒塗りの車が俺たちの歩くペースに横付けするように停車する。
一瞬トールの体が強張り、後部座席のドアが開かれた瞬間、繋いでいた手を解かれ俺の体を自分の背後に回すようにしてトールが立ち塞がる。
「……アンタ……工藤さん…だっけ?ナニ?」
目の前に立つ、一ヶ月ほど前にトールとやりあったヤクザの男に、トールは威嚇するような表情で臨戦態勢をとろうと脚に力をこめているのがわかった。
こないだ、組長さんに話をつけてきたはず……だったよな。
「……オマエとやりあうつもりはない。佐倉さんの息子とは、俺も知らなかった。弓華にきっちり話を聞いたら、そっちの男に振られたってことだったからな。そいつが弓華とつきあえばいいだけの話だったんだが…」
「……コイツは俺のモンだ。コニシにはやらねえ」
俺を指差して、トールは眼光をいつもより鋭くさせて相手をねめつける。
ヤクザ相手にまったく引かない。
「弓華の話は本当だったんだな。男なんてつまんねえだろ、イイオンナ紹介するぜ」
食い下がる工藤に、トールの苛々が募っていくのがわかる。
背後からたちのぼるオーラはすごく怒りを帯びている。
「俺、トールにしか勃たないんですよ。悪いけど、小西さんとは付き合えません。あんた、ただの幼馴染でそこまでするんですか」
「弓華は、今の組長の娘さんだ。佐倉さんにも頼んだんだが、それはできねえって指詰めようとしたんで……それは止めたんだが…」
「これって、組長さん知ってるンか?こないだ俺、侘び入れたンだけど。アンタだけじゃねえな…周りに5人……」
「さすがは佐倉さんの息子だな……。まあ、確かに男にしておくのももったいねえくらい綺麗な顔した男だよな……えーと、日高くんだっけ」
俺の顔を見下ろしてくる工藤の顔は、どこか値踏みするようないけ好かない表情をしている。
「……顔くらいしか取り柄はないですよ」
「ふうん。この綺麗な顔なら、アンアンいわせてみてえっていうのも分からなくもないが……所詮男だぞ、東流」
俺の顔を見てというか、体格やその他も総合して判断をしている工藤にたいして、トールはぴんとこなそうな表情をするが、やっと気がついたのか、
「アンアンなァ……そりゃあ、ヤスの顔はすげえ可愛いけどよ。まあ、アレだ、突っ込まれるのは俺のほうだからなァ…」
「ちょ、トール、余計なカミングアウトしてどうする」
思わず突っ込みをいれてしまった俺とトールを工藤が唖然とした表情で見返す。
トールはぽりっと前髪を掻いて、面倒そうな表情で呟いた。
「あ…そだなァ。まァ、どっちにしろ今日はヤスもいるし、引かないなら全滅させンよ」
「ちっと驚いた……いや。高校生相手に二回も構えたら、流石に破門されちまう。ちょいと脅しにきただけだ……」
「へっ、そりゃナニより。こっちも性なる夜を満喫しちまったから、HP足りてねえしな」
トールはにやっと笑うと、俺の腕を引いて工藤の脇をすり抜け足早に歩き始める。
工藤も回りにある気配も動こうとはしなかった。
「……大丈夫。もう……ハラは決まってンだ。……ナニがあっても、ヤクザ相手でも、オマエのこたァ、ぜってェ守ンよ…ヤス」
耳元で囁かれる熱い言葉に、俺は深く頷き、また鼓動が早くなっていくのと衝動をおさえようと両手に力を込めた。
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