オレ達の日常
63
埠頭の最先端近くまでぶらぶらと歩き、係留ビットに腰をおろして日の上る方向に目を向ける。
今年最初にあがる朝日。別に普段と何が違うというわけではないのに、皆ありがたがって見る。
それが不思議といえば不思議なのだが、それでも年の始めというのはそういう特別なものという感覚を人はつけたいのかもしれない。
「まだ寒いね」
ヤスは俺の背後から腕を回してぴったりとくっついてくる。
それだけで、あったかく感じるのは物理的な問題だけではない。
「まあな。冬だし仕方ねえよ」
はぁーっと吐き出す息が真っ白で、水平線が少しほんのりピンクっぽい色に染まってくる。
大体、毎年初詣は近くの神社に行って、露店眺めているうちにいつの間にか喧嘩に巻き込まれて、ちょっと運動してから家に帰るのが常だったが、今年は特別のようだ。
「トールの心臓バクバク聞こえる……」
耳元で囁かれると、下半身が反応しそうになって俺は唾を飲み込む。
くっついてるだけでソノ気になってきてしまうとか、本当に俺の体はこらえ性がない。
「そりゃ……俺だって、久しぶりだから…な」
「……俺もだけどね。…あ、太陽…でてきた」
ちょっとづつ白み始める空の色と、水平線から少しオレンジ色が頭を出すのを眺めていると、ヤスの頭が俺の頭に押し付けられるのを感じ、舌先で唇を叩いて中へと入ってくる。
背中が痺れるような刺激に、革パンがキツキツになってくるのを感じる。
舌を吸い込まれて、甘く歯先で刺激されるのに体を震わせながら、俺はオレンジになっていく空を眺め、ヤスの腕をぐっと掴んだ。
「ふ……トール……可愛い……とろんとしてる。……今年最初のキスだよ…」
唇を外して、もう堪えきれなくなって欲情している俺の顔を眺めて頬を撫でる。
ここが外じゃなかったら、このまま突っ込んで欲しいと懇願してしまいそうだった。
ゆらゆらと出てくる太陽の光のように、俺の頭の中もゆらゆらとしていた。
「トール……、今からひめはじめもいいよね」
誘うように俺の腕をとって引くヤスの言葉に俺は逆らえるはずもない。
こないだから、本当にこらえ性がまったくなくて困る。
「バ、カ……外は凍死すンぞ…」
なんとかやっと出した声はかすれてて、言葉とは裏腹に期待してるのが自分でもわかった。
凍死はともかく、熱量はハンパ無くて、ここでヤッても熱で溶けるくらいじゃねえかって思った。
「ここで裸になるのは、新春寒中水泳のオニーサンくらいっしょ。トール、バイク帰りは俺運転するよ」
漸く立ち上がった俺のジャケットのポケットから、バイクのキーをごそごそと引っこ抜いて指にかける。
「……ヤス……って、、どこいくんだよ」
「家までもたないでしょ?ラブホは年中無休だからさ、愛に休日はないだろ」
確かに家まで持ちそうにはなかったが、直接的に言われるのも、かなり照れるものがある。
革パンはあいかわらずキツキツで歩きにくいのに、早足で腕を引くヤスの後ろを歩きながら返す言葉もなく、止めたバイクまで歩み寄ると、俺は黙ってタンデムに跨った。
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