オレ達の日常
54
上にあがるエレベーターはガラガラで誰も乗ってこなかった。
ガラス張りの夜景が見えるエレベーターに俺は思わず、張り付いて下を眺める。
いつもよりきらきらの多いライトは本当に綺麗だ。
「トール、ガキみてえだ」
くすくすと俺の所業に笑いながら、ヤスはエレベーターの扉が閉まると俺が背にしたガラスに腕を突き出して顔を寄せる。
「話題の壁ドン」
「壁じゃなくて、窓だぜ」
「細かいこと気にしないの……」
頭の裏に腕を回され、少し背伸びをしてヤスは俺の唇をゆっくりと吸い上げる。
「ちょ……ンッ」
だれがくるかもわからないエレベーターの中、俺は引き剥がそうと力をいれたつもりだったのにまったく入らない。
それだけでなく、ジンと頭が痺れ息苦しさに唇を開くとゆっくりと舌先が俺の舌を絡めてなでまわしてくる。
ン……だ…?熱い。
下半身にすぐに熱が伝わって、さっきまで感じていた欲望がすぐに盛り返す。
舌の裏を舐められ、コートの内側に差し込まれた手が、いたずらっぽく俺の胸元へと這い、こりこりとピアスをひっかけるとビビビと電流が走る。
全身を駆け抜けるような快感に、俺はあっけなく達してヤスの腰に腕を回し体を支える。
くちっと糸をひいて唇が外れると、まだイッている俺をヤスは眺めて微笑む。
「イクほどキモチよかった?密室だと、人がきたら匂いでバレちゃうかな……」
耳元で意地の悪いことを囁かれるが、俺はそれどころじゃなかった。
脚ががくついてしまい、たったこれだけの行為で腰が抜けそうになっている。
幸い誰も乗ってこず、ぼんやりとした頭のままヤスの体に少し体重をかけて歩き、部屋の扉の前で天を仰ぐ。
「キスだけで、イっちゃうなんて、トール、すごいやらしい」
囁かれるだけで腰にくるからやめてほしい。
ドアを開いて、部屋の中に入ると普通のビジネスホテルである。
俺はほっとして、コートを脱ぐと股間にじんわりシミができてきてるのに、ごくっと息をのむ。
体が欲しいと俺に訴えている。
もっと、もっと……ヤスに触れてほしい。
「汚れちゃったね。お風呂、入る?」
悠長なことを言っている、ヤスの肩を掴んで俺はさっきとは逆に壁に押し付け、唇を吸い上げる。
ヤスの指先が俺のパンツのベルトにかかり、ズボンをするっと下に降ろす。
下着の上から形をたどるように、精液に濡れた箇所を何度もたどられる。
求めるように俺は唇を開いて、ヤスの唇に舌を割り込ませて吸う。
くちゃくちゃっと音が響き、ヤスが下着ごと俺の雄を掴んで擦りあげてくる。
堪えようもない快感に、俺はパンツの中で二度目の射精をし、壁についた腕で体を漸く支え息苦しさに唇を外した。
「…ッ…ンは…ぁはぁ…っ」
「もう、とろとろの顔してるよ……積極的で嬉しいけどね」
すっかり俺の体はバカになっちまっているようで、ヤスのささやきにもびくびく震えだす。
「も……はや…く……ヤス、さわって…くれ」
「可愛い……ちゃんとベッドにいこう」
ヤスに引きずられるように、部屋にいくとシャツと汚れたパンツを剥がされて、ベッドの上でよつんばいの体勢をとらされる。
ヤスはアメニティの中からアイマスクを取り出すと俺の顔につけて視界を奪う。
何もしていないのにこの状態なのに、視界まで奪われたら壊れちまう。
「トール、もう欲しいの?すげえパクパクしてる」
揶揄するようにアナルのそばに指を這わせて、ヤスは第一関節だけ入れて少し隙間を広げ、とろとろとローションを注ぎ込んでくる。
「…ううう…く…ッ…ヤス…ッ…ほしい……」
思わず腰を揺らしてねだると、ヤスは指を引っこ抜いて、
「もうちょっと熱くなったらね」
腰を背後から抱えられ、背面座位のような格好で両脚を拡げられる。
首筋をちゅうっと吸い上げられ、それだけで肌が震える。
視界に余計な情報が入ってこないだけで、数倍も体が敏感になる。
「――ッああ…ッ…ああ…やす…っ」
両乳首をこねられ、ピアスがカチカチと音をたてて中枢から麻痺していくような電流が流れ、全身の汗腺から汗がにじみ、内股が痙攣する。
どうにかなりそうだ。
はやく…ほしい…はやく…っ
ソレしか考えられなくなり、頭も真っ白になってびゅくっと三度目の熱を放った。
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