オレ達の日常=SIDE Y=

53

プレゼントだといって渡された小さい包みの中には、革の飾りのついたごつめの鎖が入っていた。
記憶にある中で、トールからプレゼントなどを渡されたのは、初めてだ。要らないものとかはよく渡されたけれど、そうではなく俺のためにと選んでくれたのが、嬉しかった。
思わず涙が零れて、驚いた表情のトールの顔がゆがんで見えた。
「……泣くほど嬉しいとか、ホント……ヤスって可愛いよな」
へらっと笑いながら、目を細めて見つめてくるトールの嬉しそうな顔の方がよっぽど可愛いなと思いながら、俺はカバンの中から包みを取り出して、トールに渡す。
「じゃあ、俺も……トールに……」
レストランとかホテルとかで、結構金を使ってしまったので大したものではない。
トールは照れたように鼻先を指で掻いて、包みを受け取りかさかさと中をあける。
トールの好きそうな龍と虎のモチーフのシルバーのペンダントである。
じっとそれを見つめて、自分の首にかけるとにっと口の端をあげる。
「うわー。かっけえ。俺こーいうの好き…アリガトな」
予約したクリスマス限定コースが次々に運ばれてくる。
いままで付き合っていた女にもここまでのことはしたことはない。
本命だから、そりゃあ気張るよな。
やっぱり本命じゃないと、自分はダメらしい。
目の前にどんっと置かれた大きなチキンにトールは目を輝かせている。
結構、これでもかというコテコテなものにトールは弱い気がする。
未成年なのでシャンパンが頼めないのは残念だが、代わりにジンジャーエールをもってきてもらう。
雰囲気というのは、結構大事なようで、いつもよりもトールの表情が上気しているように思える。
周りからは男二人で可哀想なんて目で見られているのかもしれない。
目の前に置かれていくスープやサラダを見つめ、目を輝かせるトールは本当に可愛い。
「ヤスと一緒にクリスマスとかって、中1以来だよな。あん時は、親と一緒にだったけど」
「中学になるとサンタさんがこねえって知って、トール落ち込んでたよな」
滅多に欲しいものをもらえるチャンスがなかったトールが凄く落ち込んでいたが、長谷川家の教育方針なのだから仕方がない。
「ケーキ食えるのは嬉しかったケドよ。お袋も稼ぎ時だったから、店の準備とか手伝わされる日にいつの間にかなってたけど」
目の前に並んだ食べ物を眺めて、懐かしそうに笑うトールにグラスを差し出す。
「じゃあ、初めての二人きりのクリスマスに乾杯」
「おー、乾杯」
笑顔を向けるトールに、俺は胸の奥が癒されるのを感じる。
こんな風にうまくいくなんて、半年前は考えもしなかった。
拒絶されることしかアタマになくて、どうやったらその体も心も支配できるのかそれしか考えてなかった。
ナイフを手にチキンを切り分けて口に含み、幸せそうに目を細める様子が現実なのか、今でも信じきれずにいる。
スープをすすって、まだ夢の中の出来事みたいな感覚に大きく息をつく。
「一緒に、こういうとここれるなんて……夏休み前には想像できなかった」
「ンー?そうかー」
もしゃもしゃとリスのように口に食べ物をいっぱいにして、一気に飲み込むと意外そうな表情でトールは俺を覗き込む。
「アレだぞ……えーと、セージが言ってた。俺ら昔から両思いだっただろって」
グラスを傾けて、ジュースを口に含み上気した表情で顔を突き出してくる。
セージは俺らを中学から見てきた男だ。
幼馴染だとしても、異様に仲がいいよなとか、普通弁当とか作ってくるかーとか気にはしてたみたいだが、そう見えていたのか。
トールの男前の部類に入る端正な顔立ちがぬっと寄せられる。
鋭い三白眼の目が、いたずらっぽく細められ、少し低く声をひそめていう。
「まー、キッカケは必要だっただろうけどな。俺、バカだから男と男がセックスできるとか知らなかったしよ」
バカだからとか、知る、知らないの問題ではない。普通には到底考えつかないだろう。
それにトールは基本的に情弱である。
周りの情報など殆ど知らない。
だから、俺は思いも伝えず理解なんかできないだろうと、強姦して監禁するとか卑怯な手を使ってしまった。
「でもよ、最初にちゃんと告白してくれたら、俺は断らなかったと思うぜ」
鈍感は俺のほうだったのだろうか。
トールの言葉に、自分の行動がおかしく思えて思わず笑ってしまった。
「嫌な思いさせちまったよな。あの時は……」
「熱中症になったけどな……まあ、アレは俺の服選びにいってくれてたんだし……。オマエの行動の全部が俺っていうなら、ソレは嬉しいことだ」
スープをすすって、口端をあげてにっと笑うトールに心底見ほれる。
「トール……」
短絡的で基本的に深い考えはもたない性格。
さっぱりとしすぎて、基本的に執念とか執着はもってない。
そのトールが俺の顔だけは気に入って、それを守ろうとしてくれているのに、いつも俺は優越を感じていた。
「それに、なんだかんだセックスはキモチいいしなァ。こーやって嬉しい気持ちだとよ、めっちゃシたくてたまんなくなるのよ、俺」
あっけらかんと言ってのけるのは、本当のことだろう。
AV見てもオナニーもしないほど性欲に乏しかったのに、自分からシたいと言うほどに、トールの体はすっかり快楽墜ちしている。
肌がいつもより上気して見えて、上機嫌なのか鋭い表情も今は本当に柔らかい。
いつもより饒舌なのは、本当にこのシュチュエーションに浮かれているのだろう。
「この上のホテルも予約してあるんだ」
「マジか。ヤス、なんだかオトナだな……。アレだ、性なる夜?」
もしゃもしゃと食欲を満たして、ベタベタなシモネタでおかしそうにへらっと笑う余裕な表情に思わず笑いがこみ上げた。
俺の好きな人は、昔からこーいう人だった。
そして、今も変わらない。

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