オレ達の日常
52
セージとは別れて、コートのポケットにプレゼントをしまって、待ち合わせしてるだけなのに、どうして囲みにあっているんだろうか。
確かに、待ち合わせ時間の30分前から、ついついその場所に待機しちまったンだけども。
「ハセガワァー、オシャレに決めちゃって、デートとかですかァ」
俺の胸倉を掴んですごんでみせているのは、東高らしいプリンアタマの男。
名前は忘れた。
東高のやつらは本当に俺を目の敵にしている。
「うるせェ……ヒガミですかァ?おめえらと喧嘩してる暇ねえよ」
面倒くせえなァと思うのだが、こういう奴等は暇だと喧嘩したがるものだ。
今日の格好は、ヤスに買ってもらった服なので、いつもの俺より数倍以上オシャレになっている。
こんな時に喧嘩はしたくねえなァ。
「ハァ?喧嘩大好きなハセガワ君の言葉とも思えねえけど、よっぽど可愛い子と待ち合わせしてるのかな」
勘違いしているのか、俺の首根っこをグイグイと締め付けてくる。
うぜえ……。
我慢の限界……だな。
俺はその手首を掴むと、ぐいっと力を入れなおして鳩尾あたりに一発膝蹴りを食らわせる。
けほっと声をあげて、膝を落とした相手の背中にすかさず踵を押し当てて、ぐっと踏み込み、
「ここで下がっておけよ……折角のクリスマスイブだぜ、病院送られたくねえだろ」
低く囁きながらぐりぐりと踵でアタマを押しつぶす。
骨を折らないように軽く加減しつつ、でもしっかり痛みを与えるように強く踏みしだく。
「トール、お待たせ。お楽しみ中だったァ?」
囲みを蹴飛ばすように分けて、ヤスは俺の隣にくると腕をぐっと引く。
「ン、いや。じゃれついてきたから、頭撫でてやっただけだ。」
「へえ……じゃあ、行こうぜ」
地面に突っ伏す男を見下ろして、ヤスは足早に俺の腕をぐいぐいと引いていく。
「……ったく、ついてそうそう囲まれてるからビックリすんだろ」
ちょっと不機嫌そうな綺麗な横顔を眺めて、俺は歩を早めてヤスの歩調に合わせる。
「帽子でも被ればよかったか?」
「いや…トールはオーラがあるから無理だな」
専門店のあるビルに入ると、エレベーター前で立ち止まる。
「オーラねェ?そんなに強くなるつもりもなかったンだけどな、オマエ守れるくれえで良かった」
ぼそっと呟くと、ヤスは俺の手をとってぎゅっと握ってくる。
手袋ごしだけど、凄くあったかい気がした。
「中学の時、俺が東高のボスのオンナを寝とっちゃったとき、ムリだっていうのに、乗り込んでくれたじゃん……。俺守るのに、そんなに強くなる必要ができちまった……からだよな」
「そうかも。でも……オンナとっかえひっかえしてたのは……俺のせい?」
ピンという音が鳴って、エレベーターの扉が開く。
「叶わないって思ったら……ね。ヤリきれなくなってさ……トールは波砂と付き合ってるしって」
エレベーターに乗り込み、少し大目の客の中にまぎれて、俺は口を閉じた。
ガラス張りのエレベーターから、いつもよりキラキラが大目の夜景が見える。
最上階で止まると、エレベーターを降りてちょっと高級そうなレストランの前で足をとめたので緊張する。
家族でもこんなところにきたことはない。
「……ヤス、こんなとこ大丈夫なのか?」
「貯金はたいたし、本命との初めてのイブだし……」
柔らかい声で耳元で囁かれると、腰にキてたまらず腕をぐっと掴んだ。
「……そ…そうか……来年は俺が……準備すンよ」
やべえな、声だけで勃起しそうになるとか、本気で俺の体終わってる気がする。
「期待しとく」
ヤスが照れたように綺麗な顔を緩めて笑うのを見て、心底可愛いくて仕方がなくなる。
レストランのボーイに案内されて窓際の夜景の綺麗な席に通される。
ボーイの人も男二人で何してるんだって表情をしているのがわかるが、気にもとめない。
「さすが、ヤスだよなー。マジで、夜景すげえよ……」
ヤスはコートを脱いで、近くにある上着かけにそれをかけると、椅子に座って俺を見上げる。
「トールが夜景で感動してくれるとは思わなかったけど、たまにはロマンティックもいいかなって」
「なんだよ。俺だって普通に感動するぞ」
キラキラといつもの倍は光っているであろう光の粒の煌きはオンナじゃなくても、綺麗だと思うし感動するものだ。
「で、よ、俺からは……コレ……」
ガサガサとコートを脱いで、ポケットからさっきラッピングしてもらったプレゼントをヤスの手の中にぽんっと置いた。
信じられないといった驚いた表情で、ヤスは俺を見返し、そのラッピングをあけてじゃらっとウォレットチェーンを取り出してぎゅっと握り締める。
「ちょっとした、サンタさんなんだぜ、俺も」
椅子にふんぞり返る様に座って、ヤスの喜ぶ様子を見たくて顔を寄せる。
じっとチェーンを見つめるヤスの目元が僅かにしばたいてぽとぽとと涙が落ちる。
「ちょ……ゴメン、これじゃイヤだったか」
「いや……すげえ嬉しくて……涙出た」
可愛らしく涙を拭いて笑う表情に、俺は再度ドキドキと鼓動を早め、たまらないくらいに欲情しているのを自覚した。
Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.