オレ達の日常

47

「はァ?じゃあ、年明けたら四国にいくってのか」
実家から帰ると、洗濯物をとりこんでいたヤスは、俺を振り返り不機嫌な眼差しで俺を見返す。
冬休み、受験勉強があるとは言え、一緒に住んでるのだし正月明けたらすぐにまた実家から帰る予定ではあった。

留年の話をしたら、セイハも親に迷惑をかけられないということで、冬休み中俺のスパルタ教師をしてくれると承諾してくれたのだが、条件をつけられた。
タンデムに乗せて四国までつれてけっていうことだ。
確かに、電車で行っても途中フェリーだろうし、だったら大橋をバイクでわたってくれってことだ。
どうやら、逃げた彼氏さんが四国にいることを突き止めたのか追いかけたいらしい。
四国っていやあ、お遍路とかするとこだからバイクでいけばちょちょいだろう。
自分のオトウトながら一途なやつである。
「まあ、往復で3日もありゃ帰ってこれるって…」
「あのな、俺はいけないんだよ。センター間際だし、分かってる?」
イラついた口調で言われなくてもわかってる。
「ンー、分かってるって、ちょっとバイク飛ばしてくるだけだって」
「あのね、トール。トールはもう目つきとかもってる雰囲気とか、そういう悪い連中ひきつけちゃうんだぜ。西覇はある程度戦えても、きっついだろ?」
「……髪の毛黒くする……就職の方の内定式もあるし。俺はセイハに勉強おそわらねえと、卒業できねえし」
「髪黒くしただけじゃムリと思うけど……まあ、西覇にもちゃんと言っとく」
なにやら酷く不機嫌のまま、取り込んだワイシャツにきちんとアイロンをかけはじめる。
本当に主婦のように手際がいい。
「トール。パンツ畳んで、引き出しにわけてしまっといて」
かーちゃんかと錯覚するような口調で指示されながら、不機嫌なヤスには逆らわず言われたとおりにパンツをしまい始める。
「……トール……、明日、夕飯食いに行こう」
一緒に住んでいるのに変なことをいいだすなと、振り返るとヤスはどことなく期待に満ちた視線を送っている。
明日…何かあったっけな。
カレンダーには、特に赤いしるしはないが、24日だなあと思ってはっとした。
そういや、クリスマスイブってやつか。サンタさんがこなくなってから、どうでもいい日となっていた。
「いいけど……店とか混むンじゃねえの?」
「……予約してるから、平気」
ちょっと、何だ、そのリア充っぽいスキル。
確かに、そういうとこマメでイケメンでモテ男のヤスだが、俺にまでそれを発揮するのか。
つーか、そしたらやっぱプレゼントとか期待してるよなァ……行く前に用意しとくか。
「そっか、すげえな。どこらへん?」
「本町の駅前ビル。予備校から近いから終わったらすぐいける」
「分かった。予備校終わるくらいに行くから待ち合わせだな」
そういや、ヤスにプレゼントとかしたことはない。
そんなかしこまった間柄でもなかったし。
恋人同士なんだし、今までとおんなじってわけにもいかねえよな。
「なんか、待ち合わせとかトールとすんの新鮮だな」
「初めてかもな」
ガキの頃は、お互いの家に迎えに行っていたし、高校になってからも、殆どの時間一緒にいたから待ち合わせする必要がなかった。
パンツをしまい終えると、俺はヤスの背中を背後から包むように抱きしめ、
「今年はオマエとの初めてづくしだ。俺とオマエのやってねえこと山ほどシようぜ」
耳元で囁くと、かあっと首筋まで真っ赤に染めたヤスは照れた表情を浮かべて俺を見上げる。

「……ほんと、無意識に誘ってんじゃねえよ……もう」

誘った覚えはまったくチリほども無かったが、ぐるっと振り返ったヤスに床へと押し倒された。
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