オレ達の日常
46
「……で、留年しそうなの?」
ヤスの手作りのオシャレな夕食、海鮮サラダとポークソテーを食いながら、終業日に呼び出されて担任から告げられたことを俺は報告した。
欠席日数と期末の結果が悪すぎたので、補講を受けて3学期にあるテストをクリアしないと留年らしい。
欠席日数の大体は、ヤスの所業による発熱とか怪我などによるものなんだが、成績が悪いのは俺のアタマが悪ィせいなので仕方がない。
「まあなァ、卒業一緒にしたかったんだけどなァ」
ぼやくように言いながら、味付けが絶妙でたまらないポークソテーを口にする。
どうして、こう俺の胃袋をそそる味付けができるんだろう。
おふくろやセイハではこうはいかない。
胃袋まで牛耳られている気がするが、うまいものはうまいので純粋にそれも込みで愛してると思う。
「てか、就職決まってるだろ……マズイんじゃねえか?西覇に教えてもらったほうが……」
「ンーーー、断られた」
唯一の頼みの綱だった俺の優秀な弟は高校1年のくせに、高校3年までの学科はすべて習得している。
高校受験のときも世話になったが、今回は断られた。
多分、ちょっと前に失恋したらしく、すごく傷心モードなんで、俺の勉強をみるどころの話ではないのだろう。
「ちょ……俺も、受験あるしなあ。西覇、まだ元気ねえの?」
「おー、まあ彼氏に逃げられちゃったらなァ、可哀想になるくらい落ち込んでる」
どうやら、付き合っていた彼氏は、西覇が怪我で入院している間に、転校されてしまって消息不明になっているらしい。
まあ、死ぬほどの目にあっても助けたかったやつにそんな風に逃げられたら、元々人間不信なのにさらに拍車がかかっているっぽい。
まあ、でも男なんだし、ンなことは自分でなんとかするだろう。
ヤスは心配そうな表情をして、頷くと、俺の目の前にビシッとフォークの切っ先を突きつける。
「そうだな。オマエも俺に同じことしようとしたの忘れないように」
「あー、だなァ。もう、しねえよ」
オシオキはしねえって言ったくせに、かなり酷いことになったのは記憶に新しい。
SM好きなヤツと付き合うのは、本当に頑丈じゃねえともたねえ。
つうか、俺が頑丈だから好き勝手してるんだろうか。
「そうだ。西覇にいい男紹介するとか?」
ふと思い当たったようにぽんと手を叩くと、ヤスは自分のサラダを口にしながら首を横に振った。
「西覇、別に男好きじゃないでしょ。たまたま、あの子が良かったみたいだし。直接頼んでみろよ。留年って伝えた?」
「いや……」
メールで”成績やべえから教えろ”とだけ送ったと告げると、ヤスはやっぱりとため息を深々とついた。
だいたい兄弟の会話ってそんなもんだろう。
「留年って言えば家計もかかわることだし、それなりに教えてくれんじゃないのか?俺は受験だし、誠士は脳筋だからね」
友人にもあたれないといえば、きっとなんとか教えてくれるだろう。
いつも、そんなもんだ。
「分かった。ちっと明日実家にいってくる」
あれからオヤジにも会ってなかったしと思いつつ、俺は絶品の夕食に夢中になった。
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