オレ達の日常

37

事務所というので、いかにもといった場末のビルなどを想像したが、つれて来られたのは見た目はしっかりとした会社のようなビルだった。
最近のヤクザっていうのは、こういう普通の会社っぽいんだなと感心してビルを見上げる。
セージは車で待つということで、セージの親父さんと二人でなんとなく話すこともなくエレベーターに乗る。
「就職先は決まっているのかな」
「はい。運送業に内定してン……ます」
敬語には慣れてないが、まあ社会人になるわけだし練習しねえとなと考えながら、降りたロビーの受付に親父さんは話しかけて、暫くして自動扉の中へ通された。
社員の人らは、見た目普通にスーツを着ているが、目の奥は尋常ではない殺気みたいなものを放っている。

「野口さん、わざわざこんなとこまでご足労いただいて」
部屋に入ると、黒いスーツ姿の男達がずらっと並び、奥に居た初老の男が椅子から立ち上がりもせずに親父さんに声をかけた。
「いえ、時間を作って貰って、こちらこそ」
「高校生相手にウチが恥をかいたって話なら、こっちは処断を下したんだがね。野口さんは少年課も見るようになったのかな」
「息子の友達なもんでね。危害を加えないでほしいと嘆願に来た」
「野口さんの場合、圧力ともいうがね。ソレがそこの餓鬼か」
「…詫び入れに来ました。長谷川東流です。煮るなり焼くなり……」
俺は、床に膝をついて頭を下げた。
とりあえず軽く袋にあっても仕方ねえだろう。
セージの親父さんもいることだし、殺されはしねえだろうし。
「東流!?テメェ、こんなとこでナニしてんだァ?」
聞きなれた声に驚いて、少し頭をあげると、見慣れたオヤジのすっとんきょうに驚いた顔にでくわす。
つか、黒いスーツ姿でまったく気がつかなかった。
「はァ??オヤジこそンなとこでナニしてンだよ」
俺もすっとんきょうな声を出していたと思う。
「いや、なに……ええっとな…」
逆にうろたえるオヤジは、いつもの無駄な勢いがない。
とりあえず殴るとかそういうことはしてこない。
「佐倉、その餓鬼はおめえの知り合いか?」
「……おやっさん。すンません、こいつは俺のガキでして。こいつが仕出かしたことってなら、かわりに俺が指詰めますんで」
俺は口をぽかんとあけてオヤジを見上げた。
「ええっと、オヤジってニートじゃなかったのか……」
いままでお袋のヒモでニートだと思っていたが、違うようである。
どうやら本職のスジの人なんだろうか。
「東流君、君のお父さんは彼なのか。佐倉虎信……」
「サクラって名前はしらねえですけど、虎信はオヤジの名前です。なんで長谷川じゃないんだろう」
首を捻る俺をよそに、セージの親父さんは合点がいったような表情を浮かべる。
「佐倉のガキなら工藤がやられても組の恥にはならねえな。まあいい。随分イイ腕で名前を売ってるそうだが、継がせる気ィはないんか」
「こいつは女房のもんですんで、堅気に生きさせよう思っとります」
つうか、オヤジってヤクザだったのか。
どっと脱力して、とりあえず腰をあげて頭をさげる。
「佐倉虎信は、久住組の若頭補佐だ。前組長の息子が工藤甲斐で、今回の失態でおろされたから、次は佐倉が若頭って噂もあったが、自分の息子がやったならその話はなくなるな」
耳元でセージの親父さんが教えてくれるが、工藤もそれなりに強いやつらを揃えてきて俺がぶちのめしたなら、オヤジの組もたいしたことはねえのだろう。
そういえば、ガキのころは2、3年オヤジの顔をみないとかざらにあった。
オツトメとかしてたんだろうか。
でも、ショックでけえな。
だったらニートのほうがよっぽどマシだったなと思う。
しょげてる気分がわかったのか、セージのおやじさんは俺の肩を慰めるようにとんとんとたたいた。
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