オレ達の日常

36

「ここがウチ」
学校帰りにセージに連れてこられた家は、純和風の家で大きな門と庭は日本庭園のようになっていて、思わず度肝を抜かした。
「セージの家って初めてだよなァ。でっけえな」
中学からの付き合いだったが、まったく来たことはなかった。
まあ、家業のこともあるだろうし、こういった純和風の家とか来ても緊張するだけだし、一人暮らしのヤスの家にたむろってる方がらくだしな。
「まあ、代々の家だからね。入って」
そりゃそうだろうけど。
思わず緊張して背筋伸びちまった。
「おう。お邪魔します」
靴をそろえてセージの隣に並べて、つるっつるに磨かれた廊下をゆっくりと歩く。
異常に長く感じるのは緊張のせいかもしれない。
こういうのは慣れない。
物事に動じないとかなんとか言われてるけれど、それでもこういう自分に体験のねえところでは、ついつい気が張っちまう。
セージの後ろについてあるき、障子をあけて和室に入ると、いかにもという風情の堅そうな顔をした少し厳つい中年の男がそこに座っていた。
「父さん、これが、こないだ話した友達の東流」
セージは座椅子に座って俺を手招きする。
俺はちょっとかちこちになりつつ、セージのオヤジさんに頭を軽く下げ、セージに習って座椅子に腰を下ろす。
なんとなく、いたたまれない空気だ。
「初めまして。東流君……、だいたいの話は誠士に聞いたよ。それにしても、ヤクザが堅気の高校生に手を出すとは」
ええっと、敬語ってどう話しゃあいいんだっけ。
どぎまぎしちまう。
「……俺も逃げりゃあヨカッタ…んですが。ハラが減ってて、体力ねえから逃げ切れねえかなと思いまして」
まあ、逃げても追いかけてくるだろうし、てか、ヒガシ逃がしたかったし。
「東流は、友達を逃がしたかったんですよ。父さん」
俺の心を読んだのか、セージは真相をきっちりと告げてくれる。
まあ、ヒガシいなければ逃げたのは間違いない。
「逃げるつもりはあったと。でも友達を逃がすために、相手をしたというんだね」
真実を見透かすような目に、俺はしっかり目を合わせて頷いた。
「相手10人のスジの人だし、普通は逃げる…ますよ」
敬語は慣れないので何度か噛んだが伝わったらしく、セージのオヤジさんは大きく頷いた。
「なるほど、とんでもない悪がきだとウワサで聞いたが。それほど血気盛んなタイプじゃないんだな。東流君は」
まあ、売られた喧嘩は定価の倍で買うけども。
自分から売ったことは一度もない。
「自分から喧嘩は売らないですよ。面倒だし……。」
それに厄介だ。
「それなら良い。じゃあ、車を用意してくるから待っていてくれ」
オヤジさんは立ち上がって、部屋を出て行く。
マジで、ちょっと心臓止まりそうだった。
「うー圧迫面接って感じ」
「東流でも緊張するんだな」
感心したように呟くセージに、俺は天井を見上げた。
次はヤクザの親分との対面だ。
心臓もつかなァ。
「大丈夫だろ、東流の心臓は鋼鉄製だからな」
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