オレ達の日常
35
「で、結局ヤリ過ぎて二人そろってサボりかよ。俺の説教は意味なかったのか」
俺は、流石に体中がだるさでいっぱいで、ベッドに横になりながら狩ゲームに夢中になっていたが、呆れたようなセージの言葉にうーんとうなりながら答えた。
「いや、燃えたぞ。甘いセックスも」
「そこじゃねぇ」
深々とため息をつかれ、恐竜を狩り終えた俺は、携帯ゲーム機をベッドヘッドに乗せて、セージの顔を覗き込む。
心配性で優しいこいつは本当に心底俺らを案じてくれているのだと思うと、正直嬉しくなる。
それはヤスも一緒だったのか、勉強机から目を離して振り返って俺と同じような思いを口にした。
「誠士、トールのことは俺が大切にすっから、大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
ヤスも疲れすぎたのか、今日は午前中まで俺と寝ていて、起きたとたん勉強しはじめた。
本当に必死でやってる姿はカッコイイなと普通に思う。
「お前がそう言うなら何も言わねーよ。そうだ、メールしてくれた久住組なんだけどさ」
「何か対処できそうか?」
そういや、そっちの問題もあったよな。
さすがにヤクザ相手にひとりで立ち向かうのも厳しい。
「いや、話じゃ高校生に潰されたってシャレにならないからな、その若頭は降格になったらしい」
降格とか実際にそういった処分されてるなら、こっちに火の粉は降りかかってくるだろう。
本当に逆恨みってやつは面倒だ。
「報復とか面倒なんだよな、何とかならないか」
「怖がるわけでなく、面倒なのね」
肩を落として、ベッドサイドに座るセージはまったくオマエはと零しながらも、ある程度俺の気持ちは予想して把握しているようで、一度深く息をつく。
オヤジさんに頼んでも、そりゃ組の面子とやらもあるだろうから、色々こっちも動かないといけねえだろうな。
「ヤクザになる気はないしなァ。降ってくる火の粉は払うけど」
「そうだろうな。トールはスカウトされたことはあるのか?まあ、その前に元若頭も報復にくるだろうしな」
セージの目は真剣で、流石に警官目指しているだけあって眼光が鋭い。
「あるよ。ちゃんと断ってるけど」
確かにチンピラつぶしたときとか、声かけられた。
自分にはそんな気もないとはちゃんと言っている。
「なら安心した」
「どーするかな、そこの組に乗り込むか」
俺は頬を掻いて、考えるのも面倒になりながら少し痣になっている下腹部を見やる。
「なに、その話の流れ」
ちょっと驚いてペンを置くヤスの顔はやめてくれと言外に語っている。
「スジ通して、組長さんに詫び入れするのが一番だからな」
「そうだろうけど、殺されるぞ」
ヤスは俺を見返して、やめておけとばかりの表情をする。
大体、ヤスがコニシにカムアウトするからこうなったんだけどな。
「死なねーよ。オマエを1人残して死なない」
強く言い切ると、ヤスはうーと唸って、俺の顔を見返して天井を見上げる。
「な、なに、その男前!」
「まあ、東流ならそう言うだろうと思って、親父に仲介をお願いしておいた」
セージは最初からわかってたとばかりに、俺の肩に手を置いてぽんぽんと叩く。
「流石だぜ」
「大丈夫なんだろうな。殺されないよな」
ヤスは少し取り乱した様子だったが、多分マル暴のセージのオヤジさんの顔をつぶすような真似をするようなヤクザはいないだろう。
「警官なめんな」
セージはヤスを宥めるように言って、俺の顔を見返した。
「ヤバくなったら全力で逃げんよ」
元若頭のほうはどうかわからねえが、組に狙われるよりはマシな筈だ。
不安そうなヤスの顔を見やり、やっぱり心配されるのはキモチいいもんだなと、再度実感した。
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