オレ達の日常

15

やっぱり疲れちまったのか、やたらに眠ィ。まったく、ヤスの野郎、気ィ失うまでヤるかよ……。
帰ったらそのままノックダウンだろうな。
俺が横に誰かを連れ立って歩くのは、ヤスやセージ以外では珍しい。

クラスのスポーツマンのサッカー部のキャプテン東山輝矢である。
キャプテンヒガシは、マジ普通にカッケェタイプの男であるが、何故俺とヤスのセックスを見たがったのかは謎すぎる。
見た後も、あまり態度は変わらないのも不思議といえば不思議だ。
こっちを見下すとかそういうのもない。

どうでもいいけど、マジ腹も減ってきた。
「なあ、東流。腹減ってる?」
なんだかんだで、下の名前を呼んでくれるがまだビビッている様子ではある。
そして俺の表情を読みぬいたソツのない誘い文句に、俺は頷いた。
「めっちゃ減った。でも金ねェや」
バイトそろそろしようかとも思うンだが、面接もなかなか通らないし長続きはしねえから面倒になっている。
「そっか、でもハンバーガーくらいならおごるし、帰るまでもたなそうだぞ」
心配そうに横目で見てくる態度は、悪くはない。
こういう顔はヤスのを見ても、他のヤツのをみてもいいなあって思う。
俺って心配されるのが好きなのかもしれねえ。うぜえな。
「え。いや、何もかえせねえよ」
「意外と律儀だね。スポーツ向いてると思うよ。綺麗な筋肉のつきかただし」
「そう?部活入ってもなァ、すぐ追い出されたしなあ」
バスケ部に中学のとき身長を活かそうと入ったが、暴力沙汰ですぐに退部処分になった。
「なんで」
「喧嘩しすぎ。暴力沙汰は困るんだってよ。でも、大事なもん守れねえのは、もっと嫌だしなァ」

中学のときは、本当にヤスが遊びまわったケツばっか拭いてた気がする。
あの綺麗な顔に傷がつくのは嫌だった。
「日高、愛されてるんだな」
やや感心したような口調で伝えられ、確かにそうだなと思う。
ずっと、普通の友情とは違った気がする。
気がつかなかったのは俺だけなのかもしれない。
「そういうもん?それが普通だったんだよ。スポーツなんかよりずっとヤスが大事」
「迷いねえな。東流はホント迷いねえよな」
横目で見られて、なんだか不思議と心地いい。
全部知られているのは気が楽だ。
「そうか?考えるの苦手だからな。俺」

ふと膚に違和感を覚えて周囲を見回す。
突き刺すような敵意、敵視。
やっべえな。こいつは戦闘要員じゃねえし……10人か。
「確かに、得意そうじゃないなあ」
俺のことを眺めながらのんびりとこぼす男の腕を引いて体を丸めて耳元でささやく。
「ヒガシ、そこの路地入る前に、あっちの商店街にダッシュで走れ」
こいつのダッシュなら撒けるはずだ。

「え?」
「お客さんが10人ほどきたみてェ」
いっちょひと暴れしとくか。腹減ってるけど。
「1人で大丈夫なのか」
「ヒガシはスポーツ特待決まってるんだろ。俺なら大丈夫、慣れてる」
暴力沙汰は起こせない。心配そうな表情を浮かべるヒガシの背中をぱんと叩く。
俺の横で、戦えるのはあいつだけだ。
「しかしな」
「俺の客だからな。キッチリダッシュ決めろよ」

しきりに気にするヒガシの背中を強く押して首を横に振る。
暴力は東山に似合わない。
綺麗な顔して何のためらいもなく戦っていたのは、ヤスだけだ。
俺と一緒にいつだって戦ってくれた。
顔以外に好きなところはそこだ。
誰にもできないこと。
路地へと足を踏み入れたと同時、一気にバッシュを鳴らして、商店街へと走り出したヒガシを見送って、俺は軽く伸びをして隠れていた男たちがわらわらと出てくるのを眺める。

「何か用すか?」
高校生ではない。ちんぴらでもない、スジの人たちである。
俺、何かしたか?
思い当たる節もないので、いつでも戦闘態勢に入れるように両脚に力を篭めた。
「北高のハセガワだよな。俺の幼馴染虐めてくれたらしいんで、仕返し」
その集団を指揮するように俺の前に現れたのは、リーゼントに薄く細いグラサンをかけたいかにもという風貌の男である。
「ハァ?ヤクザに知り合いいねえっすよ」
間合いを計るように、周りを囲む男達を確認する。
一筋縄じゃいかない感じだ。
いつもの高校生相手のあまい感じではいかねえな。
「俺は久住組の若頭、工藤甲斐だ。いい面構えするな、オマエ。ここらへんじゃ、有名なガキらしいが……女を泣かせるヤツは最低だ」
「泣かせてねえっすよ。覚えはないよ」

泣かせたのはきっと俺ではない。ヤスの方なんだが。
「北高の小西弓華、その子が俺の幼馴染でね。オマエを締めるように言われてるんだ」
「コニシ……か。なるほどな」
泣かせた原因は、俺じゃあねえけどな。
コレがコニシの言ってた復讐な。
よおく分かった。

「心当たり、アリだよな、じゃあ、遠慮なくやっちまえ」
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