オレ達の日常=SIDE Y=
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「立ち聞きなんてイケメンのすることじゃないんじゃないの、ヤッちゃん」
屋上の扉前で外を覗き込んでいた俺に、戻ってきた波砂は少し怒ったような表情で、肩をパンと叩く。
波砂は、俺の母の妹で俺の叔母である。
それが波砂は恥ずかしいのか、絶対黙ってるようにと俺に言うが、顔のパーツは大きさ以外そっくりである。
「大丈夫、今さら返せとかいわないわよ。トオル、あんたに襲われたのがきっかけとか言ってたけど。そんな卑怯なことしたの?」
「……したよ。既成事実でもなきゃ、腹くくれないよ」
「ヤッちゃん。あんたもトオルのこと言えないくらい鈍感だよね、トオルはずっとヤッちゃんのこと好きだったよ。付き合ってた時も、よく言ってたよ。ナズはヤスに似てるから安心するって」
少し悔しそうに言う波砂の言葉に自分も同じような気持ちだったことを思い出す。
自分に似た波砂と付き合うなら、まだ仕方が無いかなとか思ったり、波砂と結婚したらトールは俺の叔父さんになるのかとか思ったこともあった。
「本当に好きな相手には、いつまでたっても自信とかないもんだ。どうせ叶わないならと思って俺は思いを遂げた。まさか許してくれるとは思わなかったけど」
「ヒドイ噂流されてるわよ。このままじゃトオル可哀想よ。トオルのこと大事にしてるなら、ちゃんとどうにかしてよね。根回しはしてあげるけど、同じ歳のカワイイ甥っ子のために」
冗談ぽく言って、階段を降りていく波砂の背中を見て肩をすくめる。
素直じゃないのは遺伝かもしれないな。
なんだかんだ、波砂はトールを今でも好きなのだ。
女の子たちを丸め込む方法なら、いろいろ知っている。
牽制するのもいいかと思ったけど、波砂のいうとおり可哀想だな。
俺は、重い鉄の扉をあけて、フェンスにもたれてだるそうにタバコを吸っているトールに向かって歩き始めた。
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