竜攘虎搏

3

冬休みが明けてまだ十日ってところだが、正月ボケがまだまだあと二三ヶ月くらい抜ける気がしない。
ずーっとお正月で、もち食い放題とかだったら人生楽しいだろうな。
学校でもちつき大会とかすればいいのになあ。
無駄に体力あまってるやつらがいっぱいなわけだし。

汚い落書きだらけの門をくぐって、のろのろ校舎へと向かうが、なんだかまばらにだが生徒が集まっていて元々良くない空気だけど、一層不穏な空気を発している。

俺の通う東高校は、ヤンキーばかり集まる市内でも有名なバカ高校だ。
入学してみて、まさかアルファベットからやり直しする事になるだなんて思いもしなかった。

正月気分をなんとか振り払って、漸く学校についたのに、なんだか学校全体の空気が暗い靄に包まれていて、朝からなんだか憂鬱な気分になってくる。

ん、気分転換に購買にでもいこうか、どうしようか。
まあ、何かあったんだろうなァとは思うが、聞きたくないし、実際かかわりたくねえなってのが、一番にある。
が、多分かかわらずにいさせてくれないんだろうなと思うと、足取りが次第に重くなっちゃうのは仕方ないことだ。

帰りたいとも思うが、出席日数が足りないのでそれもできない。

「士龍サン、士龍サン……」

昇降口で名前を呼んでいるのは、同じクラスの木崎直哉である。俺の背中を遠慮がちにとんとんと叩く。
歳は一つ下だが、俺が留年したので今年からはクラスメイトをしているのである。

めんどくさいことは嫌いだから、本当は話も聞きたくないんだけどな。
あーやだやだ、うざってぇなーと思いながらも、でも友情ってやつは大事にするんだぞと、じいちゃんも言っていたから無碍にはできない。
じいちゃんのまめ知識は、まもらないとね。
のろのろ振り返って俺を呼ぶ、直哉の顔を見下ろす。

昔は身長はかなり低い方だったが、俺の中にあるドイツの優秀な遺伝子により、いまは185cmまで成長した。だから、大抵のヤツを眼下に見下ろせるのだ。

「ナニヨ?ナオヤ。俺を呼んだか?なーんかさー、空気悪いよねェ、今日」

靴箱からくたくたで汚くなった上履きを取り出しながら指先をつっかけて、教室に向かおうと廊下へ出る。
購買に寄るプランはこれでは却下だねえ。

「金崎のトコが、北高のハセガワに潰されたって……、富田とかが報復いくっていいだしてるンすけど、うちは加勢しねえでいいのかねって」
「…………あ、そーいうこと?うーん、うーん、……ハセガワなァ、前から言ってるけど、アイツはこっちから手ェださなきゃ無害なんだから、絶対にかかわるな。他にも仲間にいっといて」
勝ち目ねえしな。
ハセガワという男はこのへんでも化け物のようにつよいので有名である。
やめときゃいいのに、うちの奴らは構いたがる。
構わなきゃ、アレは何もしてはこない。
それは、俺は彼のことはよくわかっているので、仲間うちには、手を出すなとおふれをだしているのだ。

「士龍サンも、知ってるデショ、小倉さんたち3年がさ、ハセガワ潰してきたらココのトップにするって触れ回ったの」
「あーーーね。別に、俺、トップとかそういうの興味ねえしな。それで、絡みにいくやつがあとを絶たないんだねえ。俺はいかねーし、オマエらもいかないように!!ちゃあんとみんなに口をうめぼしにして、言っておいてね」
「うめ、ぼし……って」

まあ個人的な理由からも、ハセガワという男のことは相手にしたくはない。
その理由は個人的すぎて、他の奴らにはいえないが。

教室に入ると、数がまばらにしかいない。

皆、報復とやらにいったんか、金崎の派閥も結構な人数いるはずだ。
つか、もう少しまっとうな青春過ごさないと、俺みたいに留年しちまうんだぞーとか思いながら自分の席につく。

停学回数、7回。東高での過去最高回数だねって先生にもため息つかれながら言われた。

とりあえず、テストの点数はいいので、まだ留年は一回で済んでいるけど。
うまくやっていたら、もうすぐ卒業だったんだけど、まあ、なんだかんだ要領は悪い方だ。

めんどくさいなと思いつつも、頼まれるとついつい手を貸したくなってしまう。
だけど、これ以上かーちゃんを心配させるのもね。
怪我のことも、とーちゃんにうまく言って階段から落ちたことにしてもらってるし。

もう18歳だしなァ。

いいかげん、バカバカしいことばかりするのはやめて、地味に将来でも考えないといけねえかな。

将来は、なにになろうかな。
まずは、そこからかな。
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