竜攘虎搏

2 ※SIDE T

「派閥、抜けたい…………って?」

幹部の先輩に一緒に抜ける元宮たちを誘って入っている派閥からの決別をしにいくと、途端にざわりと色めきたつ。
高校に入学してから去年1年間、世話にはなっていた先輩たちだ。こんなことはやはり言いにくくはある。

合併を繰り返して大きくなったオレ等の済む市には、6つの公立高校がある。
偏差値が一番高く優秀なやつらが集う第一高校、真面目な奴等ばかりの南高校、進学高の北高校、就職組が殆どを占める中央高校、ヤンキーばかりの西高校、ヤンキーしかいない東高校といった具合で、大抵は西と中央と東が三つ巴で派閥争いをしている。

その中でオレが通っているのは、底辺のラインの東高校である。
基本的に学校内で派閥があり、校内戦争が勃発している。
主にオレがこれから辞めようとしている真壁派と、敵対している小倉派の2分がされている。
今年は、真壁派のアタマである真壁士龍がテッペンとして学内を牛耳ると思っていたのだが、どうやらこの間の外部チームとの抗争で怪我をして入院したらしく、出席足らずで留年が決まったらしい。
別に2年でもテッペンって言っていいのだろうが、彼はあっさり辞退したのだ。

「ココにいても、真壁さん、テッペンとれねえじゃないですか。それでもかまわねぇっていうし、オレはそんな人の下につきたくねえです」
はっきりとした態度で、そう言うと幹部の村澤さんは拳を握りしめる。
この人は激情型の武闘派なので、はっきりいって敵には回したくはない。

「確かに、シローはテッペンとか欲しくないし、富田の言い分もわかるけどね。いま、シローは入院中だし、ちょっと戻るまで待てないか?」
隣でボールを天井に投げて遊んでいたもうひとりの幹部の栗原さんが、ボールをキャッチしながらオレに向き直ると、飛びかかりそうな村澤さんを腕で制する。
「待って、どうするんすか?」
「そりゃあ、士龍とタイマン勝負だろ」
村澤さんは、どうせオマエじゃ勝てないとばかりに挑発するようにオレを見返す。
「ショーへー、黙って。まあ、確かに、待ったところで、アイツは富田とタイマンはやらねーだろうね。明らかに、富田はどうせ勝てないから。分かった、別に止めないよ。士龍は寂しがるけどね、アイツがいたって止めないだろうし」
「栗原さん。オレがどうせ勝てないっ…………て!?」
静かに告げる栗原さんにオレはなんだか腹がたって食いかかる。

「自分より強いヤツとしか、シローはやり合わないんだよ。そんなの、もう分かってるだろ?」

そうだ。
だから、敵である小倉さんにも手は出さない。
絶対に、力は彼の方が上なのに。
ケンカもだいたい派閥のヤツをつれていかないで、1人で解決してくる。
憧れていたぶん、それに腹が立って仕方がなかった。
ここから抜けないと、ダメな気がした。

オレは、分かってますと告げてオレ達が抜けることを幹部に伝えて、オレ達でテッペンを目指すことにした。
教室へ戻ろうとすると、扉の前に同学年の木崎直哉が仁王立ちで立ち塞がっている。
ヤツは盲目的に真壁を崇拝しているので、最初は気があったが、最近じゃかなり反目しあっている。
つかつかとオレに近寄り、木崎はグイッ胸ぐらを掴みあげてくる。

「栗原さんから、オマエらが抜けたって聞いた」

「ああ、そうだ。何か?」

ギリッとオレを睨みつける相手に、オレはため息をもらす。
「オマエら、うちと敵対するつもりか?」
冷静な口調をこころがけているつもりだろうが、声の端々は苛立ちと怒りに満ち溢れている。
「さあな。真壁さんのトコにいても、テッペンとれねーなら自分でとるっきゃないでしょ。出てくのはそれだけの理由だ」
「世話になった、士龍さんが居ない時にワザワザ出てくのは、喧嘩売ってるってことだろ。出てくなら俺が相手になる」
「やめとけ、木崎。オマエはオレに勝てないし、オマエを潰したらそれこそ真壁さんにケンカを売ることになる」
世話には、なったかもしれない。
まあ、こっちが喧嘩に巻き込まれたときは、すぐに加勢にきてくれる。本当に頼りになる人だった。

だけど、それだけだ。
オレはもっと野心のある人を上に担ぎたい。
それがいないなら、オレがそれになる。それだけだ。
「そう思われても仕方がねーけど。仮に居たとして同じことを言ったとしても、オレは真壁さんが引き止める人だとは思えないけどな」
オレが知ってる真壁士龍という男は、仲間を大事にしてはいるが、それを頼りにはしていない。
人数が増えようと減ろうとまったく気にはしない。
己のチカラだけで全て解決しようとする、ワンマンなヤツである。

「木崎、オマエもわかるだろ?」

何時も余裕そうにかまえていて、何一つ大変な顔すらせずに片付ける。おんきせがましくもなく、野心すらまったくない。

憧れはする。
圧倒的な強さの下、安心感はある。

だけど、それじゃ足りない。

オレの中にある、ふつふつと煮えたぎる感情は、それじゃ足りないとばかりいっている。
それを掴み取るためにも、オレは真壁さんの庇護下にいることをよしとはできなかった。

木崎は俺の上着から手を外すと、勝手にしろっと捨てゼリフを吐いて、別の教室へと向かって歩いていった。
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