燃え盛るのは業火。
砂漠のオアシスをオレンジに広がる炎が焼き尽くす。
煙で前後が見えないが、彼は馬を蹴って襲い掛かってくる騎士たちを薙ぎ払っては、燃え盛る天蓋の間を駆け抜けていく。
悲鳴と怒号が彼の耳の中で木霊して、頭の中を侵食していく。炎に焼けた生暖かい風が、焦げた香りをともない鼻先に掠める。

……貴様ら王族や貴族などさえ、いなければ………。
俺の人生も変わっていただろう。これが罰だ。

砂漠のオアシスでの冷えた闇の中の襲撃は、兵士たちも油断していたのだろうか、もうもうと焦げる匂いがたちこめる中で迎え撃とうと掛かってくる兵士もまばらだ。
それよりも我先にと逃亡する輩の背中が、彼の視界の隅に映る。

勝利を確信した仲間の勝鬨のような歓声が、ぐおおと聞こえる。
エルバの盗賊と呼ばれる、彼の所属する盗賊団は反政府組織としても名高く、それなりの実績をもっていた。

だから俺は、志願して盗賊団に身を投じたのだ。
俺の家族は……貴族たちに惨殺された。
ハンターだった親父が貴族の馬を誤って撃ち殺してしまったからといって、ヤツらは親父を捕らえて面白半分に殺した。
笑う貴族たち…………。奴らの顔を俺は死ぬまで忘れない。

奥まで踏み込み、彼は馬を降りると天蓋の綺麗なテントに足を踏み入れる。
既に煙が蔓延していて視界が白く閉ざされている。

うまく前が見えねえが……ココなら金になりそうなモンがありそうだ。
煙を掻き分けながら、視界がとざされている先をめくら状態で進んでいくと、焦げた匂いが消え柔らかい香りに空気に、視界が明らかになる。

彼は物色するように視線をめぐらせて、薄絹の贅を凝らした天蓋を掻きあげ、視界に慌てて寝台からテントの隅へとへっぴり腰のままで逃げる男が飛び込んできたのに、剣を構える。

「く、来るな！！何でも褒美はとらせるから、余を助けろ」

命令されることに慣れた倣岸な言葉が、天蓋の中に響く。
頬を切り裂き流れ落ちる血で、彼は興奮していた。
何人も切って返り血を浴びた男には、貴族らしい男の助命嘆願を聞いてやろうという気持ちはまったくなかった。
むしろ、倣岸なその態度は、彼の中の理性を焼き潰したようだった。
彼は煙が押し寄せてくる中で、壁際で震える男に剣を突き出し、その喉を一気に切り開く。

溢れる真紅。
燃え盛る炎の中で、目を見開いた男が膝を崩して砂の上にどさりと転がるのを見る。

こりゃあ、俺も早くずらからねえと、丸焼きだよなァ。
彼は男の周りに転がる装飾品を拾い懐に入れた。

……………？！！
人影がゆらりと動くのに、彼は身体の動きを止める。

隅の寝台の上に転がっているのは、どうやら人のようだった。
そこには逃げ出すことすらせずに、ベッドの上でほうけたように座っている青年がいた。
長い金色の髪を肌にまとわせ、この状況に焦りさえなく呆けたような表情で虚空をみあげている。

「なんだ。あんたも殺されたいのか」

彼が近寄って青年をみやると、妖艶な美しさをもった全裸の人間だった。
両手足をベッドに鎖で括られて、ベッドから身動きがとれないようだった。
男の体からは、上等な香油をまんべんなく塗ったいい香りが漂う。

……あの男の愛人か？
まあロクなプレイしてなかったみたいだが。

剣を構えて喉元へと突きつけても、まったく青年は無反応で恐れもなにも人間らしい反応はなかった。
血に染まった血の剣先を眺めて、意味不明な笑みを刻みぼんやりと宙を見上げている。

まるで、ガラス球のような青い瞳を揺らし、
「………おねがい……………おか………してくれ……」
潰れたような掠れた声で懇願の言葉を、無感情に言葉を言葉を覚えさせたオウムのように何度も繰りかえす。

ぶっこわれて、イカれちまってるのか。コイツは？！
っと、やべえ、こっちにも火が回る。

頭で考えるよりも早く彼は、青年を拘束している鎖を剣で切りちぎって肩に担ぐと、テントを飛び出す。

背後から炎が爆ぜる音が響き、怒号のようなけたたたましさが打ち鳴り周りが真っ赤に染まる。
肩の上の青年はその音すらも聞こえないようで、小さな甘い喘ぎを何度も繰り返し続けていた。
なんだよ。淫売か……。

とりあえず頭に報告して、こいつのことはうっぱらう事になると思うが。
まァ　悪く思うなよ。

彼は必死で馬に跨ると、引き締まった尻を軽く叩き仲間の集まる方へと向かった。