オレ達の日常

137

「なあ、ヤス。あのヨ……前に言ってた遊園地、いくぞ。チケットまだあんだろ」

やっぱりずっと篭もりっぱなしなのは、辛いしな。
思いついたが吉日、夏休みに頓挫した遊園地デートをずっとそのままにしていたのを思い出した。
結構あの時は康史楽しみにしてたしな。
まあ、あんなことがあったし、俺達の中でトラウマになってたのもある。
遊園地とか、あんまり行った事はないし、絶叫系の乗り物に乗るのが楽しいのかどうなのか、実際よくわからない。
着ぐるみキャラクターにも興味はないし。
まあ、だけど、康史が楽しいのなら、きっと一緒に行ったら楽しいに違いないと思う。

朝、起き抜けすぐに言ったからなのか、康史はひどく眠たそうなぼんやりとした表情をして、俺が言ったことを理解できないようだ。

「だからよ、まださ、行ってなかっただろ?明後日卒検だから今日と明日は教習入れてねーから、一緒に遊園地いくぞ」

「あ、うん。…………え、いきなりだな」
くすりと笑いながらくしゃりと俺の頭を撫でる。
そして綺麗な顔をふわりと笑みに変えて、ベッドから起き上がって、

「ありがとな。すぐ用意する」

……あ、康史が篭ってるから、気分転換なの分かったかな。
康史は察しがいいからな。
直ぐに礼を言われて、俺は機嫌よく起き上がる。
「俺も先にシャワー浴びる」
「今日はバイクでいくだろ?」
康史の言葉にすぐに勿論と頷く。
この時期だから、そんなに混んでないだろうしな。

「勿論」
俺たちにとっては、トラウマ回収のデートだしな。

「準備は俺にまかせとけよ。ちと、楽しくなってきた」
康史の笑顔に俺も嬉しくなって、うかれながら浴室へと向かった。

康史をタンデムに乗せて、海沿いの道を風をきって走るのはすごく気持ちいい。
朝早くだったのもあり、道はそんなに混んでいない。
ここまできちまえば、まさか絡んでくる輩もいないだろうし、遊園地にいくだけだ。
夏休みから結構日にちはたっちまったけど、康史も受験勉強もあったしな。

遊園地のエントランスを見ると、平日にもかかわらず結構なひとたちの姿が見える。
駐車場に入り、バイクを停めると康史からメットを受け取る。
どことなく、康史の顔が緩んで柔らかく見える。
嬉しいんだな、と思うと、今日はここに来て本当に良かったとこころから思える。

エントランスで並んで中に入ると、異世界感のようなどことなく非日常の世界のようだ。

「……で、何乗る?」
「トールは、絶叫系ダイジョウブ?」
「乗ったことねーからな。わかんねーや」
遊園地自体に、あまり思い出はない。
1度だけ家族できたが、散々だった。
康史は、オンナ連れてよく行ってたのを覚えてる。

「まあ、トールには怖いもんはねーだろうから、ここの絶叫系乗れるだけ乗るか」
「ヤスは好きなんか?その、ぜっきょー」
「結構好きかな。まあ、スリルとかなら、トールの本気の走りのタンデムには負けるよ」
まあ、ドSだしな。
もしかしたら、隣に乗せたやつの恐怖の顔を楽しみたいのかもしれねえや。
納得しながら、長蛇の列の一番後ろに並ぶ。
今日は天気がいいから、あんまり寒くねえのはありがたい。
「なんか、こうやって2人で並んでんのって、新鮮だな」
嬉しそうに呟く康史に、俺はなんだか満たされる。
こーいうとこは、苦手なんだけどな。
「夜はさ、キラキラするパレードとかあるんだけど、見る?」
期待をこめて俺に提案する康史に、俺は軽く頷く。
「一日中遊んだって、明日も教習ねえし。」
「ありがとな。それじゃあ待ってる間に何か食う?そこで、買ってくる」
康史は、たったったと屋台のような食い物販売のカートに向かっていってしまう。

片手に包みを持って康史は戻ってくると、紙包みを掴んで俺に渡す。
いいニオイだな。
「はい!食べて」
はたして、これは、なんだ。
香ばしいニオイにつられて、袋をかさりとあけると骨付き肉のようだった。
「うを、うまそうだな!ありがとな」
「トールは、こーいうの好きだよな。待ちながら食おうな!」
記憶をなくしてから、こんな本気の笑顔見れなかったしな。
ほーんと可愛いし。これは堪能しとくべきだな。

俺は肉を味わいながら、康史の笑顔も満喫していた。


Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-