オレ達の日常

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あの時とまったく一緒の返事を返されて、俺はまるでデジャヴとか思ったが、あの時は俺がイエスかはいかどっちか答えろというフリでの流れだった。
いまのはそんな流れはあの時と違って、一切なかった。

そうなると、いくら鈍感な俺でもわかる。
康史から、その答えが出る理由はひとつだ。

「ヤス、なあ、思い出したのか?」

腕の中にいる康史におそるおそる聞いてみる。
全部じゃないにしても、ら少なくとも、最初のプロポーズのことは思い出しているはずだ。
康史は頷いてら俺の頬を撫でる。

「一切合切全部だ…………なんって言いたいけど、俺にも全部だっていえる根拠もないからね。ただ、夏からの出来事は思い出した」
俺は無言で康史の背中に腕をまわした。
「トールのことをあんなふうに責めてたのに、直後に俺が同じ轍を踏むとか、ホントにありえねーよな」
少しだけバツが悪そうな顔をして、俺の胸に頭を寄せるので、康史の髪を指先で爪弾くように梳く。

「なかったことにしたし、なかったことになったんだから、それは蒸し返すんじゃねぇ」

「そうだったな。……あーあ、トールは、本当に優しい」

それをいうなら、あの時のことは、俺にとっても康史を助けることが出来なかった出来事で、不覚なことだった。
忘れるなら、そこだけでも忘れて欲しいくらいに。
「トールのプロポーズの言葉。それ、聞いたら、俺のもやもやしてた頭の中がハッキリして、色んなことがぜんぶつながったんだ」
呟くように康史はそう言って、俺の腰に腕を回す。
「初めて言った時は、俺、酷い格好だったけどな」
「M字開脚でね。それなのに、あの時は、凄くカッコ良く思えた」
頭を擦り寄せてくる様子が可愛くて、俺はふと笑いながらチュッチュと唇を頭の上に落とす。

「今もパイパンだから、かわんねーちゃ、かわんねーけどな」

笑いながら言葉を返すと、ちらと上目遣いで康史は俺を見上げて、照れたように呟いた。

「違いねーけど、トールはいつだってカッケーからいいんだ。だって、ソレって全部俺のため、だろ?」
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