オレ達の日常※sideY

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「って、ホント寒いのにずっとここで待ってたのか?」

東流は入試が終わるまで、大学の門の前でひとりでずっと待っていたようだ。途中で帰ればいいのに、まるで門番そのものじゃねーか。
3教科入試で、昼を挟んで面接もあったので、約6時間もあるというのに、そこから離れずにずっと待ってたというのだ。

狙われてるとはいえ、いくらなんでもあまりの過保護さに俺は驚きというより、心配でたまらなくなる。

「服、着込んでるから寒くねえよ。問題解けたンか?」

俺にメットを渡しながら問いかける表情は、いつものよく知る東流の顔である。
「ああ。不思議に解けた、何で3年になってからのこと忘れちまったんだろうな」
勉強内容はしっかり覚えているのに、どう行動したとかそういった記憶がすっかり抜け落ちている。
生活に支障はないのだけど、たまにする東流の寂しそうな表情を見ているのがなんだかやりきれなくなる。

「…………まァ、ムリに思い出すなよ」

寂しそうな顔をするくせに、東流は絶対に思い出せとは言わわないし、どことなく思い出して欲しくないような雰囲気を出す。

それが、なんだか不自然で俺は不安になる。

きっと東流の俺に思い出して欲しくないのだろう。
つきあったという一年の大事な記憶のはずなのに、思い出してほしくないのだなんて、何かあると思っていい。
多分、ただの喧嘩じゃなく何かがあったんだ。
東流は、隠し事が基本的にできない。
だけど、多分、記憶喪失した前後の話を喧嘩したくらいの話にして、具体的な話はしない。わざと避けているようにもかんじられる。
あんだけ東流が怪我してたんだから、喧嘩をしてたのは確かなんだろうけど。

「ほら、乗れよ?どっかいきてえとこある?まあ、とりあえず試験終わったし、ぱーっと遊ぶか?」

メットを手にしてトールはにっと笑って俺に尋ねる。

「ん……あのさ…………」
「どうしたよ?」
「ホテル、行きたい」
俺がためらいながらもなんとか吐き出した言葉に、東流は少し目を見開いて、空を見上げると大きく息をついた。

ちょっと、積極的すぎだったかな。

「まだ、真昼間だぞ……。ま、いっか、フリータイムのが安いかな……ほら、乗れ」

東流はメットを被ってバイクに跨ったのを見て、俺はメットを被ってタンデムへ跨り東流の腰に腕をまわす。

俺らはどんな風なセックスしてたのか、それすらもわからない。
俺は東流のことを、こころから抱きたいと思っている。
東流はそれを受け入れてくれるのか?
それとも、俺はその欲求を抑えて東流に抱かれているのか。

それすらも分からない。

だから、知りたい。すこしでも、記憶が欲しい。
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