オレ達の日常=SIDE Y=
39
抱きしめた体は異様にひんやりとしていた。
多分、組から出た後に外を長いこと徘徊していたのだろう。
恐怖という言葉に無縁で、どんなに俺が虐めても恐怖など微塵も覚えたことがないこいつが、俺に何かあったらって考えただけでこんなに震えているのだ。
不謹慎だけど、とても嬉しいと感じてしまう。
「なあ……口実つけて俺から離れようなんて思ってるわけじゃないよな」
そんなことはないと分かっていても聞いてしまう。
泣いているトールが可愛いくて虐めたくなってしまう。
「……ンな……真似しねえ」
低い声が微かに掠れている。色々考えて出した結果なのだろう。
前に、輪姦された後もそんな感じで別れを切り出した。
いつだって、そうだ。本心を誤魔化して、無理矢理潔く切ろうとする。
「別れようなんて、もう言うなよ。」
「……でも……怖ェ…」
「聞き分けないな。ンな、トールにはお仕置きすんぞ」
なおもぶつぶつ言っているトールのズボンのベルトバックル金具を外して、するっと引き抜くと腕にくるくると巻きつける。
「俺から離れるなんて許さない。トール、オマエが俺から離れるっていうなら、俺は……オマエを壊すよ」
俺の感情も相当ぶっ壊れていると思う。
誠士にトールを壊す気かと聞かれた時に、迷った。正直壊れて俺を求め続けろって思っていたことには間違いない。
ぜんぶくれるって言ったのに、終わりにしようとか言い出すトールを許すつもりはない。
「ヤス……ゴメン……」
謝るトールもとても可愛いけど、今日は凶暴な気分でいっぱいだよ。
愛している。
愛しているって気持ちが凶暴になるのは、本当に不思議なことだけど。
「脱がせるよ。尻あげて……」
トールは俯いたまま、尻をあげて俺が下半身を脱がすのを、俯いてみていた。
静かで感情が見えない。
こんな顔をするときは…ヤバイ。
振り返ろうと顔をあげた瞬間、がつっとこぶしが首筋に当たる痛みを覚える。
「……ヤス……ゴメン……あいしてる」
ぼやける視界に映るトールの表情は本当に……可愛いくて。
殴られながらそんなことを思う、俺も俺だけど……。
どこにも……いかないでくれ。
伸ばす腕は届かなくて。
ベルトを引きちぎる音と、広い背中が遠くなっていくのを薄れる意識の中で見ていた。
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