オレ達の日常=SIDE Y=

31

「そろそろ夕飯だし、ヤッちゃんも食べていかない?」
トールの美人なおふくろさんに誘われたら、断れるはずもない。
しかも、カムアウトしたにもかかわらずすごく友好的でさえある。
まあ、トールでさえ適当といっていた両親だしな。
トールの配線がずれまくってるのも、この両親のせいだろう。
「まあ、夕飯も用意してこなかったんでよばれます」
「料理、トールできないでしょ。いつもヤッちゃんが用意してくれるの?」
リビングに通されて、昔からなじみの席に腰を下ろす。
ほとんど毎日のように入り浸っていた。
「一人分作るのも二人分作るのも一緒ですから」
「ヤスのメシはうまいよ」
トールが俺の横に座って、殴られたところが痛むのか掌でさすっている。
ここのところ怪我してばかりのようだ。
「アンタも作れるようになりなさい」
おばさんに渇を入れられて、気のなさそうな返事をするトールの目の前にオヤジさんが腰をおろして俺の顔をじいいっと見つめる。
「ヤスシは鈴波ちゃんにそっくりだよな、ホント」
「コイツったらね、高校の時はスズナのストーカーだったのよ」
おばさんは、食卓にハンバーグやらにくじゃがやらを皿にてんこ盛りにして並べていく。
まあ、男5人くい盛りがいたらこれくらい普通なのだろう。
それにしても、オヤジさんが、母さんのストーカーだったとは初耳だ。
「む、昔の話だろ」
「それを追い払ってたのがわたしだけどね。ちょーしつこかったのよ、リーゼントで金髪でどっからどーみても田舎のヤンキーのくせして」
ビール瓶を3本もってくるとコップに注ぎながら、オヤジさんの頭を小突く。
「オマエだって、けっばい金髪のロンスカのスケバンだったじゃねえか」
「わたしはスズナの親衛隊だったの。あんな美人他にいなかったもの」
知らない過去がいっぱいでてくる。
オヤジとトールの両親が幼馴染なのは知ってけど、そんな四角関係があったとは。
寝耳に水である。
「追い払ったりしているうちに、恋が芽生えたとかですね」
腐れ縁とかもあるだろうし。いがみ合っているうちにだんだん好きになるとかあるかもしれない。
「いや……孝治に鈴波ちゃんが惚れてくっくいて、まあ…慰めあってできた残り物っていうか」
「残り物って失礼なやつね。ビールつけないわよ」
ぷいっとコップをさげるおばさんに、オヤジさんはゴメンゴメンと謝りたおしている。
夫婦漫才のような夫婦である。
トールと同じで、この両親も俺の顔に弱いのだろう。
遺伝子的にそういうことなのか。
「ヤスシは、トールのどこがよかったんだ」
不思議そうな表情で実の息子を眺めるオヤジさんは、俺が見返すとちょっと照れた表情をする。
本当にこの顔に弱いらしい。
「全部ですよ。小学生の頃からずっと片思いしてました」
「そんなに前からか……こんな美人ならなァ、やっぱり断れねえもんな、トール」
ニヤニヤとするオヤジさんに不機嫌そうに出されたコップに入っているビールをトールは飲み干す。
つか、未成年でしょ。
まったくモラルねえよ、ここの家は。本当。
「ヤスだからいーんだよ」
ぼそっと呟くトールが愛しい。
なんだこの可愛い生き物は。
「アニキはいつも短絡的だよな。大丈夫?後で後悔すんじゃねえの」
西覇は鼻先で笑って生意気そうな唇をひんまげる。
おとなしそうなナリはしてるけど、結構こいつは色々隠し持っているやつである。
顔はおばさんに似ていてキツメな美人タイプではある。
メガネは多分、伊達だろう。
「後悔しねえよ」
迷いなく答えるトールに、にやっと口元だけで笑うと、挑発するような表情を浮かべる。
「ふうん。そんなにいいの?セックスも」
「……何言ってンだ」
「大事なことでしょ」
「………っ」
かーっと真っ赤になったトールは怒りのオーラがあふれ出る。
こりゃあ、ぷっちん切れる前だな。
西覇も余計なことをいいやがって。
オヤジさんがいるのでここじゃ手をださねえだろうけど、俺はトールの腕を引いた。
「……メシ時の話じゃねえぞ、セーハ。トールも、キモチイイからヤってんだろ、男がそれくらいで恥ずかしがるな」
とことん……配線のずれたオヤジさんである。
恥ずかしがるなって……うーん。恥ずかしいだろう、そりゃ、家族の前でセックスキモチイイなんて思ってもいえねえぞ。
「ああ…そうだな」
って、肯定するんか!?トール……
俺はここにいると、突っ込みどころが多くて、本当に必死になっちまう。
「まったく、下世話ねえ。うちのバカどもは。ヤっちゃんも、ビール飲む?」
まったく気にしていないおばさんもどうかとも思うが・・・・、てか、高校生にビールすすめんな。
「いや…俺未成年です…」
「トールもセーハも飲んでるし、いいじゃないの。四捨五入したら20歳よ」
そりゃ雑な計算過ぎるだろ。
その計算だと15歳から飲ませてるのか、このうちは。
「バイクで来たので。飲酒運転はさすがに」
「あら、バイクじゃあね。トール乗せて帰ってあげて。弱いのに結構いっちゃってるみたい」
「勿論です」
俺はハンバーグに手をつけながら、顔を真っ赤にしたままのトールを横目に夕飯を食べ始めた。
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