オレ達の日常

9

「長谷川君、長谷川君、起きなさいよ」

ゆっさゆっさと体を揺さぶられ、脳内に殺意が沸く。
結局夜中まで俺はヤスに体力と精力を奪われ続け、目が覚めるとHP1でまっ黄色の世界だった。
もっと寝ないと、死ぬ。スライムに出くわしただけでも死亡フラグがたつ。

「……あァ…?……ナニ」

不機嫌マックスで睨み据える俺に、おびえたような表情でたっているのは学年1の美少女コニシさんである。
「そんな怖い顔したって、怖くないんだから!!!」
怖い顔は、したくてしてるわけじゃない。地だから仕方ない。
俺の前から机兼枕をどかして、スライムのようにぷるぷる震えるコニシは、俺の頬にビッシャンと軽快な音を響かせる。
痛くはないが、HP1なので死んだかもしれん。
周りを見回すと委員会なのか、ヤスの姿が無い。
居ない時間を見計らってきたんだなあと合点がいく。
「小西さん、ちょっとやめとけ」
俺とコニシの間に割ってはいる勇者は、サッカー部のキャプテン東山である。
「長谷川、手ぇだすなよ。殴るなら俺を殴れ。小西も、日高に振られたからって」
あー、キャプテンカッコいい。
ここで東山を殴ったら、まあ、悪役だろうね。HP1なので、殴る気にもならねえけども。

周りはざわつき、コニシに何かしたんだろうという正義の視線がいたい。
俺は何もしてねえからな……昼寝の邪魔されて非難を周りから浴びてるだけだ。
「な、なんでよ!どうして私が長谷川君なんかに負けなきゃいけないの」
結局、ヤスの尻拭いは俺がせんとならんらしい。
「……女に手ェ出さンよ。どけ、ヒガシ。」
俺はコニシを庇う東山を無理矢理どけて、自分が触れたら壊れちまいそうな華奢な生き物を見下ろした。
「コニシ、アレは俺のだ。諦めろ」
傲岸不遜とか俺ルールとか散々言われるが、うまい言葉は思いつかない。
「なによ……バカにしてるの?オカマの癖に、屋上で見ちゃったんだから。日高君にヤられて嬉しそうに……男の癖に突っ込まれて、あんあんよがっちゃって、あー気持ち悪い!!」
シーンと教室が静まり返る。
そりゃそうだろう。
男と付き合っているのもまだしも、まさか、俺がヤられるほうとは思ってないだろう。
それと、コニシほどの美少女からそんな下品な言葉がでてきたのが晴天の霹靂ともいえた。
幻滅した男子も多いだろう。
ただ、俺は気の強い女は嫌いじゃない。
一瞬ざわりとするが、俺をおそれてみな黙り込み気まずい空気が教室に流れる。
面倒くせえな……誰にも迷惑はかけていない。
「……間違ちゃねェな。恋人と屋上セックスして、ケツに突っ込まれて気持ちヨかった。何か文句あるのか?オマエも付き合ったらセックスすんだろ?オトコ同士だし、どっちかが突っ込まれないとなんねーし、俺のが丈夫だからよ、何か問題か?」
隠すことも、誤魔化すこともせずあっさりと俺は認めてやる。大体、ヤスの方がこのオンナにくっちゃべったんだし、隠せなんて言われてないからいいだろう。
別にイケナイことは……まあ、屋上で青姦はイイ事じゃねえだろうけど、校則に屋上でエッチ禁止っていうのはなかったはずだ。
「何肯定してるの?アンタ、周りからどう思われてもいいの、オカマ野郎」
コニシは泣きながら、ほとんど本性丸出しで俺を攻め立てる。
いま時点で、相当恐がられて近寄るヤツもいねーし、周りからなんて考えたこともない。
「どう思われても構わねえよ。文句あるヤツいる?いるなら出てこいよ」
出てきたら一発殴るけど?言外に匂わせて周りをぐるりと見回して言うが、出てくる勇者はいなかった。
「誰も文句ねェよな。だって俺がヤスにケツ貸すのも、アイツのちんこで喜んでるのも、俺の自由でしょ」
「……非常識すぎる……」
首を左右に振って、非難するコニシに俺は笑みを浮かべた。
「常識で大事なもんなくしたくねえの、俺」
それが俺の結論。
「勝手にやってなさいよ。このホモ野郎!!許さないから!絶対に復讐してあげる!」
ひどい剣幕で俺の机を足蹴にして捨て台詞を吐くと、教室から駆け出すコニシの背中をただ俺は見送った。
復讐ね……。
まあ、これでもクラス中にカムアウトしたわけだから、これで勘弁してほしい。恥ずかしいとかはないが、ちと周りの視線が正直怖いぜ。
「長谷川……よくやった」
パチパチパチと特に男子を中心として、何故か祝福の拍手が巻き起こる。
女子は、あっけにとられた顔で俺を見ている。
「ハァ?」
キャプテン東山は俺の手をぐっと握って、目をきらきらとさせてぶんぶんと振り回す。
「日高狙いの女子が、ようやく俺らに回ってくる!」
「日高のひとり食い状態だったもんなあ」
「応援するわ。日高くんは惜しいけど、小西ひどすぎるもん。長谷川君もっと怖い人だと思ってたけど、結構純情だよね」
女生徒の声もあがり、なぜか英雄のような扱いだった。
てか、かなり男として恥ずかしい告白をした気がしたのだが、教室のなかはそうはとらえていないようだ。
「日高のテクってそんなすげえの?」
「すげえっちゃ…すげえな…。抜かず5回とかざらだしな」
昨夜は本当にやばかったとこころからぼやくと、周りに爆笑が生まれた。
「なんか長谷川に近寄りがたさがなくなった」
俺は、そのときはもう、コニシの言っていた復讐とかはすっかりと心の中から抜け落ちてしまっていた。
Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-