オレ達の失敗

2 ※side Seiji

一週間も、どっちの顔も見てないなんてどうしちまったんだ。
いつもツルんでいる、ダチの長谷川東流と日高康史が夏休みに入ってからというもの、いつも立ち寄る店やゲーセンにも姿を全くみせなくなった。

どっちか一人ならまだわかるが、どっちもなんておかしすぎる。
旅行とかいう話も聞いてないし、二人だけでいくとか、俺を誘わないとかありえない。
2、3日だったらそんなに気にもしないが、一週間になると流石に気になってくる。
東流はともかくとして、康史の携帯に電話をかけても全く出る気配はない。
変な事件に巻き込まれてなければイイんだが、奴らは2人して単細胞で何も考えず突っ込んでいくので、今までも本職さん絡みの喧嘩に巻き込まれたりしていたのだ。
自分は遠くから応援するだけで、喧嘩にはかかわらなかった。
かかわれない事情もあるが、二人はよくわかってくれている。
「まさか……もう東京湾に沈められてたりしねえよなァ……まさかな」
不安に苛まれながら、康史のマンションまでたどり着くと合鍵を差し込む。
康史は一人暮らしを始めた時に、俺と東流にと合鍵を渡してくれたが滅多に俺は使うことがなかった。 大体二人のうちどちらかと一緒にくることがほとんどなのだ。
玄関を開けると、人の声がする。
なんだ……いるのか。生きてるなら、顔ぐらい出せよ。無駄に心配して損した。
ほっとしたら急にむかついてきた。
ワンルームの康史の部屋から、掠れた喘ぎと息遣いが聞こえてくる。
オイオイ、夏の昼間っからAV鑑賞かよ。
アイツ、モテるクセに頭悪すぎだろ……。
康史はアイドル張りのイケメンで、本当に女子によくもてている。
俺からしたら、ただの喧嘩好きのSMフェチ野郎なのだが。
俺は呆れながら、ガチャっといつもの調子でドアを開いて中に入り、
「おい、康史、AV鑑賞なんかしてねえで、プールにでも……いこ…ォ…」
ぜ、と言いかけて俺は目の前の光景にフリーズした。
「ンッぁ、あ、イ、、、くっ、ヤ…スっ」
勿論、プールに行くという返事ではない。
目の前のベッドの上、俺の親友二人は裸で絡み合いの真っ最中だったのだ。
それも、東流の脚を掴んで康史が激しく腰を振っているのだ。
「あ……、おい、な、なにしてんの……おまえら」
漸く、ありきたりの動揺した言葉をかけるのが精一杯だった。
しかも、地元じゃ鬼だ悪魔だと恐れられている東流のアナルに、イケメンでオンナったらしの康史がちんこを突っ込んでるとか、悪夢としか思えない。
「――……ヤス、抜け……よ」
いち早く正気に戻ったのか、東流が康史を投げ飛ばすように引き剥がして、いつもと変わらない表情で俺に視線を向けた。
「あー、ちっとヤスとセックスしてた。ちょっくらシャワー浴びてくっから、セイジそこ座って待ってて?」
ゲームしてたくらいの何気ない口調でさらっと言ってソファーを指差すと、東流は俺の横を抜けて浴室へと入っていった。
俺は、東流が指差したソファーに腰を下ろすと、すぐ横に置いてある冷蔵庫から勝手にコーラを取り出しキャップをあけた。
「……誠士、俺から説明する。」
康史は東流が出て行った扉を見やると盛大にため息をついて、ティッシュで簡単に体を拭いてからスエットの下を履き部屋のソファーに座り直した。
「まあ、あの東流に聞いても的を得ないだろうしなあ。二人共モテるのに、ホントどーしたんだ?この暑さで脳みそ沸騰しちゃった?」
「俺は……ずっとトールに片思いしてた」
「え……。康史……マジなの。二人のお遊びとかじゃねえのか、今のは」
晴天の霹靂。
ナンパがうまくいかないから遊んでいるのかと思ったが、どうやら康史のほうはマジらしい。
アーモンド色の綺麗な髪に、アイドル張りに整った顔でモデルのように適度に筋肉のついた体躯で、本当に康史は女にモテるやつなのだ。
わざわざ男を選ぶ必要などないはずなのに。
しかも、東流は男の俺でも憧れるような、全身から強さが溢れ出るような男だ。色を抜きまくって色素がほとんどない髪で、吊り上がった目は豹のようでいつでも目の前の相手を威嚇しているよな男だ。
抱きたいと片思いする男とは到底思い難い。
「もう俺ら高3だし、思いを遂げるならこの夏しかねえと思って、先週トールを俺は強姦した」
康史の告白に、俺は自分の耳を疑った。
強姦……とか、犯罪だろ。 つか、その前に東流は地元じゃ知らないやつがいないくらい腕が達つ。
「勿論、ガチでいったら殴られて終わりだから、不意打ちで殴ってスタンガンで体の動きを封じて気絶させた。トールはスタンガン使われたって気づいてねえっぽいけど……」
「ちょ、待って。マジで強姦したのか、アイツを」
強姦した関係にしては、東流に怒りの感情などは見えなかった。
さっきの様子から言って、セックスしてたことにも特に罪悪感も嫌悪感もなにもなさそうだった。
「俺の計画だと、強姦して夏休み中ずっと監禁して調教しようと思ってたんだ」
頬を掻きながら、うすら怖い犯罪計画を話し出す親友に、俺は背筋が凍った。
「康史、マジ、こええんだけども。東流はなんだかんだタフだから、調教は難しいし解放したあとの報復がこええだろ」
「殺されてもいいかなって思ってたんだ。思いを遂げられるなら、後で殺されてもいいかなって」
本音なのだろう。そこまでの片思いを親友が、もうひとりの親友にしてるだなんて、中学から一緒にいるのにちっとも気がつかなかった。
「俺のモノになってくれンなら、俺を全部やってもかまわねえなってさ」
男に恋愛感情をもったことがないからわからないが、康史の本気は分かった。
「……東流は?強姦されて怒ってねえの?」
「よくわかんねえけど、怒らなかったんだ。すげえ泣かれたケド……好きだからヤったって言ったら、許してくれた」
泣かれたって……あの東流が泣くのか。
感情すら筋肉でできていると思っていた。
信じられないようなことばかり聞かされ、思考回路が停止しそうだ。
「……で、付き合うことになって、それからずっと部屋に閉じこもってセックスしてたわけだ」
「猿か、てめーらは……」
強姦された相手を許して、付き合うって東流の思考回路は相変わらず意味がわからない。
東流も少なからず康史を好きだったってことなのだろう。
それなら、これは祝福すべきだな。
康史からいいよる女の子を紹介してもらえば、俺もハッピーだ。
ガチャっと部屋の扉が開き、よく拭けていないのか床をみずびたしにしてタオル一枚巻いて、東流は部屋に戻ってきた。
「セージ、ルール決めたから聞け。コレから、この部屋入る前にチャイム鳴らせ。居るかいねえかわからなくても、そうしろ」
東流は脈略もなく、相変わらずの自分ルールを制定する。
俺だって、ダチ同士の情事を好きで見たわけじゃない。正直あんま見たくはない。
「ああ、そりゃそうするけどよ……つか、東流、康史に強姦されたんだべ。怒ってねえの?」
「怒ってねえよ。しょうがねえべ、ヤスが俺を強姦するくらい好きだってンだし。最初は、強姦するくれえ憎まれてるって思ったら、マジ悲しくてよ。
ヤスが俺を嫌いなんだって思ったら、悲しくって涙出た。好きだって言うんだから怒ることねえし、嬉しかったから、俺もヤスが好きなんじゃねえかなって。
ヤス、オンナったらしだからよ、強姦じゃないセックスは上手いしキモチイイし、問題ねえかな」
東流の言い分は、相変わらず小学生の思考回路と変わらない。
そして、裏表がなく短絡的だ。
「……康史、オマエよかったな。東流がアホで」
「どーいうことだよォ、アホとか言うな」
ソファーの後ろをドスドスと蹴られて、少し体制を崩しながらアホな親友の顔を見返した。
康史は水濡れしたフローリングを、東流の後をついてタオルでぬぐっている。
「オマエらが幸せなら俺はかまわねえけどね。セックスばっかしてねえで、高校最後の夏休みだし、俺とも遊べよ」
東流が不服そうな顔で、背後から俺の肩に頭を載せてくる。
「セージ、ヤスがひでえんだよ。朝起きると大体縛られてンだぜ、俺だって遊びにいきてえのに。みてよ、コレ」
腕を伸ばして、東流は俺に手首を見せつける。
擦過傷と強く縄かなにかが食い込んだのかうっ血した跡が無数に残っていて、端から見ても無残である。
「ひでえな。……康史のAV、マニアックなのばっかだしな。付き合うんだし、そういう趣味も我慢してやれよ」
「トールもキモチイイって言ったじゃんよ」
俺にまで非難されて、少し拗ねたように言葉を返す康史に、東流はニヤニヤと楽しそうに笑う。
「背中も足も、今すげえエロい痕だらけだから、プールとか海は無理。なーのーでー、ツーリングしよーぜ」
すくっと立ち上がって、東流は部屋のクローゼットから康史の服を選んで身につけ始める。
ちょっとパツパツで無理がある気もするが、まあ大丈夫だろう。
喧嘩でイキんだら、北斗の拳みたく服破らないでね、面白いから。
「わーったよ。トール暴走族に喧嘩売らないでね」
康史も立ち上がって、服を物色し始める。
二人が、幸せそうだから俺は特にそれ以上の追求はしないことにした。
ダチが幸せなのが、一番だ。
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