オレ達の失敗

1

何をどう考えたら、こうなるんだ……。
目の前に立つ男の思考回路を疑うような視線を投げるも、その視線の意味までは絶対に分かってはもらえなそうだ。
元々体力の塊というか、取り柄が体力と筋力しかねえくらいであった俺は、熱中症からたった二日で完全回復した。
確かに、開発していいとかなんとか俺も煽ったかもしれない。いや、煽った。確かに煽った。それは認める。男として自分の発言には責任をもとう。
その自覚はあるが、目が覚めたら、全裸にされて腕に革の手枷と開脚するように棒を脚の裏に挟まされた格好で足枷をつけられていた。
「あー……ヤス?あのよ、言っていいよな?コレよ、……こないだの強姦と同じくない?どこがちげえの?」
「…大丈夫だ。トール、心が通じ合ってるから強姦じゃねえよ」
寝込みを襲われているがまったく強姦ではないのだと主張して、自信ありげに胸を張る康史を見上げて、身じろぎすらできない自分の情けない格好に溜息をつく。
俺だけ裸というのもなんとなく恥ずかしさが倍増する。
「つか、半分俺の趣味っていうか、ほら拘束もの好きだべ、AVとかも」
あくまで照れたような顔でフェチだと言う康史に、抵抗しても無駄だろうなと感じる。康史の股間の膨らみも用意万端でしっかり主張しているのだ。
俺の方が康史より若干背は高いししっかり筋肉もつけている。
多分途中で逃げられないように予防策なのかもしれない。
実際、少しは恐怖心もある心を読まれたのだろう。俺と違って康史は勘が鋭い。途中で殴り倒さないと胸を張って言える自信はない。 確かにないのだが……。
「ふうん。ラブラブな恋人はこういうのなのか」
棒読みで康史に言葉を投げかけると、一瞬怯むも気を取り直して説得するようにまじめな顔で強く頷く。
とても必死な表情に、自分の格好も忘れて思わずにやけそうになる。なんだかんだ、好きだと言われて俺も嬉しいのだ。
「トールもヤリてえって言ってくれたし、強姦じゃないよな」
若干自信なさげな表情になって拘束した俺を見下ろす康史に、こないだのような獣じみた表情はない。
ゆっくりと俺の顎先に手をかけて、下唇からはむはむと唇を動かして刺激してくる。
「ンッ――んぅ、あァ……俺の意志だから和姦だぜ。身動きとれねえのが、不服だけどよォ、ヤスはまだ自信ねえ?」
「トールに関しては、俺身動き取れなくしても自信ねえかも」
開かされて少し浮いている俺の足の指先に康史は唇をくっつけ、口の中に親指を含む。
「ちょ、こそばゆっ、ヤスっ」
この間媚薬入りとか言って使っていたローションの瓶を取り出して、康史は掌に塗しゆっくりと俺のアナルへ長い指を差し込む。
「くっ……ッ、はッ、ヤス、いきなりそっからか…」
「ん…む、おう、今日は優しくすっから。もう、無理矢理とかしねえからな」
足のつま先を舐めながらもごもごつぶやかれ、節がしっかりとした指で内部にクチュクチュとローションを塗りつけられ、躰の芯から爛れるように熱くなっていく。
中心で主張するペニスのさきっぽからも、とろとろっと期待するように先走りが溢れ出し、会稽を伝ってシーツへと流れ落ちる。
「トール、すげートロトロ、もう二本目はいっちまってるぜ」
耳元で囁やかれ、二本の指が交互にバラバラとやわらかな内側の壁を押し上げるように蠢くのに、きゅっと内股が痙攣する。
「ンン、っはァ、あッ…ッは、や、す、やっめ……ンッひっ、あ、あ、っあ、あひ、ああァ」
固定され閉じられない脚に逃げ場がなく、少し張った前立腺を指で押し上げるように捏ねられ、どくどくと先端から精液が溢れ出る。
射精感を伴わず、漏らすように零れてくる精液を止めようもなく、アナルは指を咥えたまま括約筋をひくつかせてるのが、自分でもわかった。
ぐちゅっぐちゅっと卑猥な音を響かせ指を動かされるたび、熱が体内をぐるぐると駆けめぐる。
「あっ、ふあッハッ、ぁああッひ、や……すっう、やっはッァ」
もっと刺激が欲しくて仕方がない。腰が浮いて棒に括られた下肢を自分から揺さぶってしまう。
頭がモヤがかかったように、思考が追いつかなくなる。
閉じられない唇から唾液が零れ、顎から首筋まで垂れてくるのがおぼろげにわかる。
たりねえ……
もっと…ほしい、もっとかきまわして……
「トール、めっちゃエロい顔してる、すげえ可愛い。どうして欲しい?」
顔を覗き込んでくる康史の表情が、少し意地の悪い顔になっている。
胎内を出入りする三本の指の動きに、息苦しくてたまらず何度も背中をたわませて、喘ぎながら呼吸を繰り返す。
指の動きが緩慢で熱を逃せず、俺は刺激が欲しいと腰を浮かせてもじもじと下肢を揺らす。
俺の体はそこでの快感を覚えてる。
逞しい肉の律動が与える絶頂感を。
「ンァ、はっあ…ぁうあ…やす…っ、んう」
ほしくて、ほしくてどうにかなりそうだ。
名前を呼ぶ俺の顔を舐めながら様子を伺う康史は、きっとよく見ているAVの中のオンナのように、俺にねだらせたいのだろう。
足枷が邪魔で力が入らず、背筋から這い上がる快感に翻弄される。
「喘いでるだけじゃわかんねえよ、トール。どうして欲しいんだ」
優しい声で聞いてくるが、股間はビンビンになっているのが布越しでもわかる。
「ンぁ、あ…ァあぁあっ、やす、やす、やす、うう…やすのぶっといちんこ…っついれて、かき…まして」
期待にこたえて、AVの女の口真似をしたが、羞恥で肌が火照ってたまらない。
ジッパーを降ろす音が響き期待感に膚がざわつく。
浅ましくねだるように自分から腰をあげて、まだ入っている指を締め付ける。
「……トール、めっちゃ顔がエロエロになってる。キモチイイの?」
怒張して濡れたペニスを俺の顔の前に差し出しながら問いかけてくる。
「うくぅ…ンゥ…きもひ…いい…いい、ああ…あ、ちんこ…ァあ…はやく……は…はやく…やす…いれて」
脳みそまで熱にうかされて、焦れてたまらず催促をする。
指だけじゃ足りなくておかしくなりそうだ。
「エロエロでトロトロの顔してる、おくち大きくあけて、ちんこ入れてやっから」
顔を覗き込みながら、俺の顎をぐっと押さえて口を開かせると、赤黒くなった太いペニスをずるっと腔内へと突っ込む。
「そっち…じゃね……ぐ…んぐっ…ンンンっくぐううう」
息苦しさと喉の奥をガツガツと突かれ、苦しさに思わず嗚咽が漏れる。
と、同時に前立腺を指で摘んで擦られ、たまらず腹に精子をぶちまけてしまう。
多分……確実に康史はサドなんだろう。俺の苦しそうな顔を覗き込み愉悦の笑みを浮かべてペニスを引き出すと、俺の顔へとザーメンをぶちまけた。
「……っは…っ、トールすげえザーメンまみれでエロエロだ、トールのけつまんこめっちゃとっろとっろになってっし、ちんこほしくてたまんねえって顔してる」
すぐに復活して屹立したペニスを見せつけながら、ずるっと指を引き抜いて俺の内股に見せつけるように擦りつけてくる。
俺の理性はぶっとんだ。
「……はや…く……はや…くぅ、ほしい…や、す、けつまんこ…して…ずぽずぽ…ちんこ…ひれて」
「すげ……可愛い、トール、大好きだ」
ズブズブと太く熱いものが躰の中心を埋める感覚に身震いを繰り返し、何度も精を放ちながら意識を失うまで康史を求めた。

「なあ……ヤス……。オマエ……どSだろ……」
意識を取り戻し、ザーメン塗れになった体を康史に拭かせながら、俺はぼんやりとつぶやいた。
やっぱり喉がカラカラに枯れてしまって体が重たい。
「そ、そうかな。普通じゃないか?AVとかわらねえと思うっけど」
ぐったりしている俺を気遣って、デコに冷えピタも貼ってくれる。普段はこんなにも優しい奴なのにな。
「オマエのコレクション、拘束とかそんなんばっかじゃねえか。ソレ標準にすんなよ」
「でも、トールもキモチよかったんだろ?」
自信ありげに顔を覗き込まれ、ヤル前よりすごくいい顔をしてるなと思うと少し嬉しくなった。
「まあな……途中からぶっとんで覚えてねえけどな。クスリ入りはもう勘弁だな。覚えてねえのヤダし」
うっすらと残る記憶のなかで、ここぞとばかりにやらしいことばかり言わされたりした気もするが、記憶が曖昧だ。
「そ、そうなのか。あ、ちゃんと動画残したから後で見ればいいよ」
スマートフォンを翳してへらっと笑っている康史を俺は凝視した。
ちょ、動画…。
反射的に俺は康史の顎にクリーンヒットをカマしていた。
「今すぐ、消せ。ぶっ殺すぞ」
「ちょ、暴力反対。…え、もったいな……」
「そのスマホ、二つに折るぞ」
脅しをかけて、康史がしぶしぶ動画を消すのを見届けながら、俺は深くため息をついた。
康史とつきあったのは失敗だったんじゃねえかと…。
このままSM趣味で調教されちまうんじゃねえか…俺。
うすら寒くなる背筋にぶるっと身を震わせて、動画を消してすりよってくる康史の体を抱きしめベッドに招き入れた。

それでも、好きなんだから仕方ねえな。
Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.

powered by HTML DWARF