トールとヤス
オレ達の喪失
「トール……、あのさ、うやむやにしたくねえんだけど、付き合ってくれるってことでいいのか」
俺の意識が戻るまでに康史は俺をきれいに風呂で洗ってくれ、ベッドも元通りにきれいに片付けてくれたらしい。
流石の俺も体力も精神力も限界で、俺は丸一日とちょっと眠り込んでいたらしい。
甲斐甲斐しく康史は俺の飯の準備やらなにやらしてくれたけど。
それなりに下心はあるということなのか、ベッドの上で用意されたペットボトルをガバガバ飲んでいた俺に確認するように聞いてきた。
不安そうな表情は、俺の一言も聞き漏らすまいと耳をたてている。
改めて付き合うって言葉はなんだか不思議な感じだ。
「あ…あー……。ヤスはさァ、強姦しちまうくらい俺とヤリてえんだべ?だったら、ヤっても構わねえって思うぜ。強姦は、勘弁だけど、ちゃんと言ってくれりゃあいいぞ」
俺は手を伸ばして、綺麗で整ったヤスの顔をなでてやる。
他の男なら勘弁だけど、ヤスだったらイイとは思っている。
「トール……。ちょっと待ってくれ。なんかズレてる。そうじゃなくて、ヤリてえだけじゃなくってだな」
俺の言い草に、慌てたように違う違うと肩を掴まれてゆすられ、ペットボトルの中身をぶちまけそうになる。
今、おみくじとか引いたら水難に注意とかになんだろうな。
少し胸元にかかって冷たい。
てか、何が違うんだと首を傾げると、康史に深々と溜息をつかれる。
「トールが恋愛とかそういうのに鈍感なのは知ってたし、だからムカついてヤっちまったンだけどさ……」
言い訳のような言葉を漏らしつつ顔を目の前に寄せられ、思わずビクッと身を引いてしまうと、少し弱り気味の表情を浮かべる。
「俺は、トールとラブラブな恋人になりてえンだよ」
康史は若干涙目になりつつ、顔を真っ赤にして訴える。
なんだか、康史の可愛い様子に思わず頬が緩んだ。
康史は結構夢見がちなロマンティックなものが好きな傾向がある。
昔、アイドルの誰かが好きだっていってたときも同じ顔してぶつくさ言ってたきがする。
そのアイドルと俺はまったく似た要素はねえんだが……。
「そっか、分かったぜ。ラブラブな恋人だな。なってやんよ、で、ヤル以外にナニすりゃいいの?」
首を捻りながら顔を覗き込むと、康史は驚いたようなすぐに喜んでいいものかと微妙な表情を浮かべて俺を呆然と見返し言葉を失っていた。、
「……すげえもったいねえよな。ヤスの顔なら女よりどりみどりなのに、本当にこんなにゴッツイ俺でいいのかよ?いつものオンナとかみてえにポイ捨てしたら、地獄の果てまで追っかけてセメントに突っ込んで東京湾に沈めるぜ」
物騒なことを言い、コイツの考えるラブラブな恋人からかけ離れちまったかと視線を返すと、真剣な表情で頷かれて手を握られた。
「トールと付き合えるなら、余所見なんかしねえよ。ヤル以外って、祭りとか遊園地とかゲーセンいったりとか…」
「あのさ、ソレ、別にいつもしてねえか?」
何がいつもの遊びと変わるのか分からずに問い返す。
「一緒だけど、恋人のソレとダチのソレはちげえんだよ」
こじつけのように必死でいう様子が可愛らしくて、こういう気持ちになるようなのことをいうのかもしれないと勝手に解釈をした。
「じゃあ、ヤス。熱中症のダルダルなのがとれたらヨ、強姦じゃねえエッチしようぜ。えっとアレだろ、夏休み中に俺の体を開発するんだべ。親に旅行っていっちまってるしさ」
「ちょッ、トール。いきなりなんでそんな積極的なんだよ。メチャメチャ嫌がってたべ」
顔を真っ赤にする様子をもっとみたいと思ってしまってる俺も重症なのかもしれない。
きっと、俺の好きも元々そういう好きだったのに、鈍感で気づいていないだけだったのだ。
「普通、意味分からず強姦されたら、イヤがるでしょ。つか、憎まれてたのかと思ったし。俺の好きも、そういう好きだと思うからよ。ヤスなしじゃいらんねえ体にしてくれていいぜ」
耳元で囁くと、康史の股間が膨らむのが布越しでもわかる。
「今すぐにでも!」
「えーーー?でも、まだ俺の体は熱中症で弱ってっから、お預けのままでいろよ」
途端涙目になる康史に肩を竦ませて、首を横に振る。この二日間の苦しみと比べたら、それくらいのお返しはしてもいいよな。
諦めた康史が布団に潜り込んでくるのを、尻をいざって横にずれて迎え入れつつ、犬のように擦り寄ってくる頭を撫でた。
多分、ずっと昔から…‥俺も、オマエも同じキモチだった。気づかねえでゴメンな。
いつも犬のようについてきた康史。
それが俺らの普通だった。そして、きっとこれからもソレは日常だ。
END
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