トールとヤス
オレ達の喪失
気がつくと俺は、康史の部屋のベッドに腕を拘束されたまま、体は綺麗に拭かれて寝かされていた。
頭はまだ、ぼーっとして何も考えることができずにいた。
そうだ……俺は…康史に犯されたんだ。
力がまったくはいらない。薬なんかとっくに切れているはずだった。
こんな、ちゃちい拘束なんか問題ないはずだった。
「目は覚めたか」
TVを見ていたらしい康史は、俺のみじろぎに気がついて立ち上がると、俺をいつもと変わらない表情で見下ろした。
「何のつもりなんだ?」
……俺は…康史に…犯されたんだ。
俺は叫びすぎて声が嗄れてしまったのか、しわがれた声だけを漸くだした。
康史はギシッとベッドの淵に腰をおろし、指を俺のペニスへと絡めた。
「ッ……ヤス」
「鈍感なトールは気づかなかったかもしれねえけど、俺は、お前にずっと欲情してたんだ。縛って、ケツに俺のちんぽ突っ込んで泣かせたいって思ってた」
ペニスを優しいとも言える指の動きで擦りながら、康史は独白するような口調で俺に告白した。
「ッ……ゥ。やめ…ろッ……馬鹿」
「やめねえよ。夏休みの間トールの体を俺が支配して、俺なしじゃ生きられなくしてやる。大丈夫、オマエの親には俺と旅行行くって言っといたから」
ビニールテープを引きちぎろうと腕に力を込めるも、肌に食い込む痛みだけが増してどうにもできない。
焦れば焦るほど、康史の表情は面白がるようなものへと変わる。
おかしい。俺は何にまいってる?
なんでだ。
何故こいつはこんな真似をしやがる。
「……ざけンじゃね……ッ、ぶッ……殺ス、、ぞ」
悲しい気持ちなんか、滅多にならないのに。これが悲しいってヤツだろう。
みっともなく泣きながら喚けば、平然とした表情にぶつかる。
喧嘩ばかりしている俺の後ろからついてきて、一緒になんでもできた同士の康史にこんな言葉を言いたくなかった。
「怖くないよ、俺、トールを怖いと思ったことはない」
静かに語る康史が、俺は怖かった。
唇に震えが走るほど、怖かった。まったく知らない友人の姿に、俺は恐怖していた。 怖いものなんか、今まで生きてきて何一つなかったというのに。
ミーンミーンと甲高いセミの声だけがぐるぐると耳障りに響く。
高校は、昨日から夏休みに入っていて、親ぐるみの付き合いの康史に旅行だと言われたら探さないだろう。
「……俺が……気にいらねえなら、謝るから……ッ…もッ…」
ペニスを弄るのを止めない康史に身を捩って抗議の声をあげるが、聞き入れる気はないらしく指の動きを速めて顔を覗き込んだ。
俺とは違い、道を歩いていればモデルにもスカウトされるような端正な顔立ち。
学校の女子がファンクラブなんかを裏で立ち上げるのも知っている。
「気に入らない所なんか無い。それが問題なんだ。トール」
セミが泣いている。康史の顔も泣き出しそうに歪んでいる。
俺にひでえことしてるのは、そっちの方なのに、何でそんな顔をするんだ。
一人暮らしなのに、性格を現すように片付いた部屋。
去年、康史の父親が九州に転勤になってここから離れたくないからと始めた一人暮らし。
地方で就職もつらいからとか、適当に理由を言っていたけれど……。
「ねえなら……こんな事……ッ…外せェ」
まだ、さっき塗られた媚薬の効果が残っているのか、触れられただけで感じてしまう。
勃起したペニスからは、透明な液体が開ききった鈴口からは後から後から零れ落ちる。
康史の指は気を良くしたように、既に熱に疼いてひくつき始めたアナルに浅く埋められる。
「言っただろ、トール。俺なしじゃ生きられなくしてやる。ずっとそう思っていた」
「――ッ……ン…な…何で…だ…ッ……、ヤス……ッ…、、、」
指の動きに吸い付くように胎内が蠢き、康史の指を飲み込んでいく。
「すげえ淫乱な体、薬のせいかもしれねえけどな。……何で?……ずっと、そう思ってたンだ。オマエを犯したらどんなに気持ちいいかって。見ててむかつくンだよ、それだけだ」
康史の指が奥を擦り、追い上げていく。
耳元で囁かれる言葉に、俺の中の優しい思い出ばかりが音をたてて崩れていく。
泣きたくは無いのに次から次へと涙が溢れ出る。
信じていた。
何も言わず、ついてきてくれる康史だけが俺の支えだった。
壊れていく。
セミの声だけが俺の耳に焼きついた。
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