竜攘虎搏

7 ※SIDE T

金崎派のやつらから仕入れた情報では、ハセガワはいま教習所に通ってるらしい。

内添も真壁もダメならオレらだけでやるしかない。
決死の覚悟で無謀な行為だが、それでもメンツは守らないとならない。
教習所の駐輪場へとバイクで向かっていると、後ろから元宮や三門、藤江らの幹部と近くにいた何人かのメンツがオレを追ってくる。

真壁のように、華麗なひとり行動はオレにはできないらしい。そして、オレの仲間はそれを許しはしないってこった。
何にせよ、何をしても真壁ならばと考えてしまう自分の小ささにも苛立っている。
教習所の近くの駐車場にバイクを並べて置くと、そこから教習所に向かう細い路地裏に入り込み、待ち伏せをする。

「タケちゃん、真壁さんの真似とかするなよ」

元宮は手にナックルをはめながらオレに文句をいう。
今ならあの時の真壁の気持ちは少しわかる気がする。
この喧嘩は玉砕覚悟の上のケンカである。わざわざそんな喧嘩に巻き込みたくはなかった。
「うるせえ。オレがやられてオマエらもやられたら、他のとこに潰されるだろ?」
「タケちゃんのくせに弱気ー」
「トミーらしくないー」
仲間から一斉にブーイングされる。
そんなつもりもまったくなくて。
「俺らがやられたところに、かちこみにくるやつはいねーだろ。なんだかんだ、真壁さんは弱った相手に殴り込むような人じゃないし、そーいう人なら俺らも離反しなかったわけだし。金崎のとこは壊滅してるし、内添たちはあそこは自衛集団だしな」
「まあな」
「タケちゃんが気に止むことはねえよ」
元宮に励まされるように肩を叩かれて、オレは少し気持ちが軽くなった。

そこへ、高身長の影が現れひとかたならぬオーラが空気を一変させた。
銀髪とは聞いていたが髪は黒い。だが、半端ないオーラがそこにはあった。
「アンタ、北高のハセガワだな?」
少し前に出て問いかけると、ひどく迷惑そうな表情でオレらの様子を上から目線で見下ろしてくる。

「あ?そーだけど。ナニ?オマエらの制服みっと、いま腹立って仕方ねーんだけど。…………怪我する前に、そこどけよ」
凄まじい不機嫌のオーラを出して、長谷川は細い目を見開き苛立ちもあらわにして、否定せずに面倒臭そうに頭を掻くと、オレらの1団を見回してオレの目をしっかり見返してくる。

「金崎のこた知ったことじゃねーが、やられッぱなしはメンツにかかわんだよ」
オレは鉄パイプを握りしめて、長谷川の長身に向かって殴りかかろうと飛び込んだ。

一瞬だった。

圧倒的な速度でかわされて、足元に凄まじい衝撃が走る。まるで鉄バットで打ち据えられたような痛みと、暗転して地面が近くに見える。
腕を踏まれ鉄パイプがカラカラ音を立てて転がる。
視線をあげると、冷たい表情で奴は唇をあげて、静かにオレを見下ろして嗤う。

そして、腹部へと激しい圧迫が加わり、踏みつけられているのがわかる。
抵抗などする暇もなく、オレはヤツに痛めつけられていた。

「タケちゃん!!よくも、ハセガワァ!!!」
元宮の声がして、長谷川の脚がオレの腹から外れ、一斉に長谷川に向かって殴りかかろうとしているのがわかる。
オレは、身体の痛みを堪えて身を起こすと、虫でも追い払うように長谷川は三門とかの攻撃もかわして、地面へと殴り沈めていく。
まずい。
助けなきゃ。
オレは背後から落ちてた鉄パイプを拾うと長谷川の頭上に振り下ろす。
簡単に長谷川は避けるとニヤっと笑い唇だけで『遅えよ』と呟くと、腹部にドカリと回し蹴りが入り、横の建物の壁まですっ飛んで叩きつけられる。
全然攻撃がはいらない。
バケモノかよ。

「多勢に無勢とか、…………卑怯なんじゃねーの?俺の大事な相棒を、ひでえ目にあわせたのによ」

怒りも露わにして、視界の隅で仲間達がグチャグチャに殴る蹴るのサンドバック状態になっている。
無理だ。
これは、潰される。
なんとか、しねえと。
報復は、オレの失策にほかならない。
クラクラする頭をなんとか奮い立たせて、壁を支えにたちあがると、元宮へと叫ぶ。
「ミヤ、逃げろ!…………ハセガワは俺が抑える」
抑えられるわけはないが、元宮なら逃げられるはずだ。
オレは捨て身の攻撃で、長谷川の胸元にタックルをくらわせ壁に押し付ける。
きまった。
いままで、攻撃はなにもはきかなかったのに、初めてきまった。
動きを封じるように、ギリギリと壁に身体を押し付けるが、まったく痛みは効いてはいないようだ。
痛覚ないのだろうか。
元宮たちが一斉に逃げたのを確認してから殴りつけようと拳を引き上げると、軽く長谷川はオレの身体を引きはがす。

長谷川は目を細めてオレを見下ろして、
「仲間を逃がすための囮とか、キライじゃねえ」
オレの攻撃を受けたのはわざと、仲間が逃げるまで見逃したのか。

「だけど、俺のほうが報復とかしてえな。ちょっとばかり、殴られとけ、タケちゃんだっけ」

長谷川は、オレを壁に押し付けて、急所にはならない腹部をゴツゴツと殴り始めた。

意識が遠く霞んでいく。
まあ、だけど、アイツらを逃せてよかっ、た。
メンツとか、正直どうでもよくて…………。
たんなる、オレの真壁への対抗心でしかなかったから。

…………そんなのに、巻き込めねえだろ。

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