竜攘虎搏

6 ※SIDE T

この辺で一番最強といわれているのは、進学校の北高に通っているハセガワという男なのである。
何故、東高にこなかったのかは、市内の七不思議とさえ言われているくらいである。
まあ、北高にいけるくらいの知能があるならワザワザ東高を選ぶはずもないから、七不思議というのもおかしな話だ。
確かに、ハセガワは自分から暴れに来るタイプではなさそうだし、真壁が言うようにこっちから手ェださなきゃ全くの無害の男なのである。
オレだって頭じゃ分かっているが、真壁に上から言われた気がして腹立って仕方がない。
去年は下にいたかもしれないが、今は対等な立場なはずだ。

なのに、ヤル気のない様子でいかにも面倒臭いけど話の相手してやろうっていう態度が鼻につく。
余裕綽々で、何よりそれが似合ってしまうし、タレ目のイケメンなのも、全部腹がたって仕方がない。
去年はそれが頼もしかったが、いまはかなり鼻につく。

「タケちゃん、どーすんの?報復いくなら、俺たちもついていくぜ」

勢いで机を叩いて真壁のいる教室を飛び出したが、腹の虫はおさまらない。
そんなオレを気にしたのか、オレの派閥のナンバー2である元宮が落ち着かせるように、オレの肩を叩いてくる。
真壁に話しかけに行ったのは自分の方からだが、あのやる気のない態度は本当にイライラするのだ。

さすがに7回も停学くらってれば、それなりに慎重になるのかもしれんが。
真壁は2回目の2年をやっているが、去年は今のトップの小倉サンと二大巨頭の派閥で争っていたはずなのに、留年したとたんにかなり落ち着いてしまったのだ。
いつだって、仲間で一緒に戦うっていうのではなく独りでなんとかしてきてしまうのが真壁だった。
それが、気に入らなくて抜けてオレは自分の派閥を作ったのだが、まったく彼にとって相手にもされてないのがわかってからは、更にイラつく。

「金崎のヤツのケツ拭くのに、オマエらに危険な目ェあわすのもなァって……」
「ナニヨ、士龍サンに感化?」
「バカ言えよ」
「そーゆーときって、士龍サンは良く黙って自分だけで報復いったりしてたからさァ。そーいうの俺等イヤだったじゃん?」
「……ンーー、別に感化なんかされてねえって……」
元宮の言葉になんだかちょっとイラッとして、手にしていた鉄パイプをギュッ握りなおす。
アイツは、仲間を必要以上に大事にしすぎて、まったく必要としてなかった。
何のための派閥なのかどうかわからなくなっていた。
真壁の派閥は、そんな真壁を利用しているようなやつらばっかりで、いざって時になったら真壁しか戦わないんじゃねえかなとまで、思っている。
きっと真壁は、それでも別にいいって言っちゃうだろうから、分かっていたって何故か癪にさわる。

「報復に行っても、潰されると思うンだ。それはわかってンだけど、このまま何もせずじゃあよ、悔しいだろォ」
「まぁ……東高の武闘派としちゃあ黙ってらんねえよな」
オレの心を読むかのように、元宮は言いたいことを先回りしてくれる。
「ただ、ひっかかるのは、金崎が卑怯な手ェ使ったってのがなぁ……。そら、ダチを輪姦されたらなあ……今回はウチに非がありまくる」
相棒を輪姦されたら、流石に普通にキレるだろ。
「タケちゃん。それな、金崎が全面的に悪ィからな。有名な話だぜ、ハセガワと相棒がデキてるって」
「まさか、イケメンですげえオンナったらしで有名だろ、ヒダカだっけ」
「北高じゃ有名な話だ。本人ら別に隠してねえみたいだしなァ」
って、流石に肝っ玉据わっているっていうか、金崎もそれを利用したと思ったら、地雷ふんずけて吹っ飛んだわけだな。
恋人マワされたら、そら、命張っても相手潰すだろうな。

そうでなきゃ漢じゃねえ。

真壁の言う通り、派閥のことを考えたり、ここで突っ込むのは危険なことは分かってる。
だから、真壁じゃないけど独りでいくのがいいかと考えている。

「タケちゃんは、なんでそんなに報復してえの?」
「名誉挽回というか、何にも仕返ししねえなら、東がナメられんだろ」
「ハセガワになめられても今更じゃねえか。何も手ェださないがいいと思うぞ、士龍サンがいうようにさ。北高は元々縄張り争いもねえし、ハセガワだけじゃねえか…」
元宮はオレを説得するように、目をじっと見返してくる。
はっきり言って、北高は俺らがそんな争いをしているとか、そんなことに気がついているやつらは殆ど居ない。

別に東高の面目とかそういうのにまったく関係のないとこにいる人種である。

「ミヤ、オマエらはついてくんな。その面目ってヤツくれーなら、オレ独りでなんとかすっから」

自分はされたくない癖に、自分がその立場になるとどうしても単独行動で動きたいと思ってしまう。

「ちょっ待てよ、マジでどこいくんだ。タケちゃん!俺らはついていくって」
元宮の制止を振り切ってオレは鉄パイプ片手に、駆け出した。
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