届かぬ太陽

2

兄が赴任して1ヶ月あまり、部署でもその能力の高さに兄をΩだと色眼鏡で見ていた部下達も、彼の地位を認めざるを得ない状況になっていた。

僕はまだ兄と会話らしい会話は出来ていなかった。彼の発するフェロモンに、抑制剤を飲んでも当てられてしまうし副作用でかなり体調が悪い。
当の本人は平気そうなのが、僕にはかなり頭にくる。

「局長、顔色まだ悪いですね。アレルギー、身内でも出るんですか」
桑嶋は心配そうに、兄と同じ部屋にいるだけで当てられてしまう僕を気遣ってくれる。
桑嶋は兄に運命の人と宣言されていたが、それはありえない。
多分桑嶋自身もそれは分かっているのだろう。
「桑嶋は、運命の番と言われたのに大丈夫なのか」
「ああ……オレは何にも感じないんですよね。運命の番なら両方に影響があるはずだし、あの人クスリ効かないらしいし……。まあ、嘘なんじゃないかとは思ってます」
桑嶋も、兄の言葉を信じてはいないようだ。
だって事実兄の運命の番は、僕なのだ。
兄は、どれだけ運命に見放された人なのだろう。ありあまる能力を活かすこともできず、運命の番とは禁忌でしかないだなんて。
知った時には絶望しなかっただろうか。
Ωの自殺率は高い。だから、判定を受けた後は自殺防止のためにΩは耳にチップを埋め込まれる。
それがΩが、すべてを管理される子作りのための道具だと考えられる理由だ。

「でも、あの人仕事はすげぇ出来るから、最近は別に悪い気はしないですけど。流石、局長のお兄さんですね」
桑嶋は、最初はバディを変えて欲しいと不満そうだったが、あの人の能力を知って考えを変えたらしい。
誰でもそうだ、どんな差別をしていても、覆すだけの力をあの人はもっている。
あの日まで、僕が彼がΩだと知らなかったのは、誰も彼をそんな扱いしていなかったからだ。

「今週だったな。2人だけでの潜入捜査は。気をつけておこなってくれ」

僕は桑嶋に上司らしく告げたが、なんだか胸騒ぎが止まらなかった。
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