ただ一つの切望に

1

「まだ1ヶ月も経ってないのにリタイアか。この人事にわたしがどれだけ頭を下げたと思ってるんだ」

Ωである自分が、宇宙警察始まって以来の異例の人事で、警察のエリート集団である海運捜査局の副局長になったのは、ひとえに総監である父の力だ。
就任して周りがαばかりなのもあり、感覚が鋭くなりすぎていて身体がおかしい。
これまでは辺境地域での警備でβばかりの同僚としか過ごしてなく、ヒートでもこんなに酷くはなかった。

通信機ごしの父親に諭されるが、このままじゃ自滅するのは分かる。

ヒート初日にセックスしたのに収束せず、すぐに再ヒートして、今漸く人と会話できるレベルに収まったのだ。

「本当に酷くなっているんだ。辺境じゃβ型の同僚しかいないし、元に戻してほしい」
「それは年齢のせいだろう。番をもたないΩは体が求めてヒート間隔が狭まってく。大体30を超えると3ヶ月に1度が1ヶ月1度になるし、35を過ぎれば常時ヒートしてる状態になる。毎日αに接しているのも起爆剤かとは思うが」
起爆剤とか、そんなもん簡単に起爆されちまったら、大変なのは俺じゃねえかよ。

「大体のんびりしてるオマエが悪い。辺境でこれ以上鍛えたら、また婿候補に逃げられるだろ。番を捕まえさえすればその後は楽になるのだし、我慢しなさい」
それには否とは答えられない。
どうやら親父は、俺に跡を継がせるのを諦めてはいないようだ。

ドクッと身体の中の血流がぐつぐつと粟立つ。

やべ、またきやがった。

「わり……ッ、サイクルきたから……また、かける」

通信を無理やり遮断して、ベッドに重くなる体を横たえた。

頭の中が沸騰したかのように、何も考えられなくなる。
何年つきあっても、理性が体から引き剥がされる感覚に嫌悪する。
四つん這いになり膝立ちになって脚を開くと、欲情してたまらない中心へと、慣れた手つきでシリコンの張形をゆっくり押し込む。
男がほしくて苦しくて仕方がない。
苦しみ解放される為に、差し伸べられた手を素直にとれたらよかったんだが。
俺は素直じゃない。
優しささえ、すぐには信用できない。
スイッチを入れると、ベッドに取り付けた金具が動き腰を固定する。
張形の裏につけた金具がゆっくりと動き始める。

「くッふ……う……ッ」

頭の中が弾けとんで何も考えられなくなる前に、安全装置つきの器具で自慰をするのにも慣れた。
最初は惨めで仕方がなかった。
「あ、ふ……くっ、ああッ……ッンンン、くあっ……あは、あああ」
この苦痛から逃れたくて、Ωが必死に番探すのは当然だ。
これが毎月になるなんて、地獄でしかない。
親父の俺を想う親心もわかる。

おれは、おれじゃねえモノにもなれねえし、それを愛してもらいたいとも思えなかった。

「く、ッあ、ああ、……ッアッアアッ……ッく」

じんじんする下半身と頭の中に、次第に何も考えられない獣に俺はなりはてた。

サイクルが収まるまでは、ひたすら体が刺激を求め続ける。
脳ミソの中も支配されて、まともな人間の思考なんかなくなる。
Ωが非難されるのは薬が切れたら、どこでもそういう状態になるからだ。
俺にはそれを止める薬さえ効かない。ヒート期間は一歩たりとも外に出れない。
部屋の中で機械の動きに腰を揺さぶり、生ぬるい快感に獣のように声をあげ続けるだけだ。

それでも仕事も身分も保証されて、俺は恵まれている。必要なものは支給されるし、なにも不自由なく生活してる分幸せだ。
中には不快な態度や差別されたりもするが、気にはしない。

グラグラと意識が朦朧としてくる。

遠くで扉の開く音がしたような気がして、甘ったるい匂いが空気に混ざりだし体が更に熱をもつ。
脚を拡げ奥までほしくて腰を機械に擦り付けて背中を反らせると、視界に目を見開いて俺を眺めるバディになったばかりの部下の姿を見つけた。

こないだ合鍵渡したなとか、頭の片隅で思考するが羞恥はかけらもなく、その男が欲しいと本能が叫ぶ。
「う……ッあう……っなァ、あ、だいて……ッ、ほ、ほしい……ッく」
腕を伸ばしてそいつの腰を掴んで、グチャグチャに濡れた下半身を押し付ける。
「をい!?だいじょうぶか……よ?」
表情に嫌悪感はなく心配そうに顔を覗かれるが、彼もヒートに当てられたのか、呼吸が荒くなっている。

抱いて欲しいとしか考えられなくなっていて、俺はそいつのベルトを引き抜くと、ズボンに手をかける。
「忘れもん取りにきただけだ、うわ、待て、待てって」
ヒート中のΩに待てなんてできっこねえだろ。
腕を掴まれたが俺は歯でジッパーをひっかけて、引き下ろす。

「理性トんでるんだ。アンタ、かわいいな」

引き出したペニスを唇に含んでしゃぶりつくと、頭を撫でられて、喉の奥まで飲み込んで鼻を鳴らす。
誘うように脚を開いて胎内にある張形を見せつけ、ずぶずぶと抜き差しする。

「……んッ……ッんう……ふ、くんん」

「可哀想なくらいヤらしくて、たまらないな」

ズルッと喉から硬く猛った肉を引き抜いて、俺のアナルから張形を引き抜きペニスを挟み込む。
「や、ぬ……いちゃ、ヤ、だ」
「今なら、すげえエロい言葉でオネダリとかしてくれそうだな。副局長ちゃんと言ってくださいよ」
わざわざ俺の役職を告げるのは、羞恥心を煽っているのだろう。
「ッ……くッ……ああ、なか、ほし……っい、なか……ちんちんっ」
「もっと卑猥なこと言ってムードだしてくださいよ。言えるでしょ。どこになにがほしいの?副局長」
頭は真っ白で、中にほしくて尻を押し付けて脚を極限まで開いてねだる。
「……ッい……あ、ふ……っう、おく、にちんちんッ、ほし……っい、なかでたねつけ……して、いっぱいだして……はらま、せて」
施設の授業で習った言葉が、簡単に口をついて出てくる。
男を悦ばせるセリフとか笑えるとか、ふざけ半分で聞いていたっけな。
興奮した男は腰をずんと押し付け、ずぷずぷと身体の中心を埋めていく。
グチャグチャと掻き回され、俺は求められるまま卑猥な単語ばかりを叫び、何度も体を突き上げられて快感を享受した。




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