Master

17

「ガイザック。お主は死んだものと思っていたが」

馬を飛ばして約3週間でたどり着いた、神聖と呼ばれる太古からの森。
深森の奥に住むローブをかぶった金髪の呪術師は、ガイザックの顔を見るなり、非常に嫌そうな顔をして、二人を屋敷に招きいれた。
まるで、20代の小娘のような美しすぎる容姿と、老成した表情がミスマッチでちぐはぐな印象を与える。

「まあ、死刑になったしなあ。それにしても相変わらず、ばあさんは綺麗だぜ」
「お主は、それだから嫌いなのだ」
荷物をおろしながら、ルイツは二人をじっと眺める。
どちらも壮絶に美人であるし、どことなくだが似ている。
「ルイツ、紹介するぜ。レイテイルの呪術師サリア。御歳123歳だ。ンでもって、オレのひいひいばあさん」
ルイツは、その名前に聞き覚えがあったのか少し目を見開いてその女性を見返した。
伝説の魔女として聞いたことがある名前だった。レイテイルの魔女……。
そしてやっぱりとは思ったが、血のつながりはしっかりあるわけか。

「よろしくお願いします。俺は、えーと、このひとの弟子みたいなもんです」
「っていうか、呪術的なマスターなんだけどな。この呪術、ばあさんなら解ける?」
伝説の魔女は、暫くガイザックの体を眺めて、首を横に振った。
「無理だな。呪術は掛けたものの力と、代償によってその強さが変わるというのは、以前話をしたことがあったな。ガイザック」
「あァ、なんだか昔そんなことも聞いた気がする」
うろおぼえなのか、忘れてしまったような表情を浮かべるガイザックに、サリアはふうっと深くため息を漏らす。
「お主の呪術の代償は、この口で言うのも汚らわしいが、お主の精液だ」
難しい表情で言うサリアに、ルイツは拳を握った。
「なんだそれ」
「ループ呪術だ。この呪術は、性を求めて狂う呪術だ。そして、求めた結果吐き出される精液が呪術を強くしていく。解くには、出さずにずっと性交渉しつづけなければばらない」
「…………ソレ無理じゃねえ?」
考えただけでも辛いことは確かであるし、そんなことをしていたら狂うのも時間の問題になりそうだ。
「そうだな、無理だ。もっと強い代償を差し出して、呪術を消すしかない」
「もっと強い代償……」
「呪術は代償魔術だからな、オマエの体の一部とか」
目をえぐりだすか、内臓を取り出すか、手足をなくすと戦いに不利になる。
「うわ、それって痛そうだな」
嫌な顔をして、ガイザックは自分の掌を何度か握りしめる。
「だから、到底無理だと言ったのだ」
呪術で使用する代償は、それだけではない。
こうもりの頭とか、からすの心臓や悪魔が好むものを代償にすることができる。
「じゃあ代償になるようなモノもってくれば、なんとかなるか」
人間の体液に勝る代償は、限られている。
しかも高位の呪術者の呪いである。
「……代償になるもの……それは禁忌の悪魔の所領へいくというのか」
「ソレしかないんだろう?行きかたを教えてくれよ」

止められないと悟ったのか、サリアは深々と子孫の顔を見下ろして肩を落とした。
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