Master
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行動を見抜いていたかのように、振り返った蝋燭の炎に照らされた表情はガイザックを嘲笑するような顔つきであった。
「私が寝たら、困るのか」
「……もう限界……、兵士の奴らで誤魔化してきたけど……。……呪いって……厄介だ」
ガイザックの口からぼそぼそと言い訳のように紡がれる言葉は、まるで切羽詰ったように掠れていた。
「<砂漠渡り>を始めて一ヶ月、いつ泣きを入れてくるかと待っていたが、オマエは相変わらず強がるからな。ようやく…………餌が欲しくなったのか」
奴隷の中でも性奴に掛けられる呪術は、主人と体液を交わすことで欲情を満たすことができる。
しかし、交わさない期間が長ければ飢えて欲情する間隔が狭まり、遂には一日中欲情し続け、それが長く続けば気が狂って廃人になるという恐ろしいものであった。
「……ほしい……ハミル様……」
近づいただけでうっすらと香る体液の匂いに喉を鳴らし、欲情しきった目を潤ませると、ドサッと抱えていま大剣を地面に放り出した。
どんなに憎悪しても、逃げ出そうと思っても逃げ出せない理由は、全て身にかけられた呪術がそうすることを許さないからであった。
逃げる機会など……いつでもあった……。この体さえ……。
「いつもは小憎らしいことばかり言ってるお前も、この時だけは素直で可愛いと思える」
ハミルは腰に腕を回すと、ガイザックの腰に巻かれている真っ赤な紐を解いた。
はらりと上着も下肢を隠していた布も地面に落ち、全裸の躯が蝋燭の炎の下で露になる。
体の体毛を全て呪術で削がれ、背中には呪いの痣が紫色に浮き上がって見えた。
ハミルはガイザックの頬を指先でいとおしむ様に撫でて、首を掴むと、思い切り地面へと体を叩きつけた。
体内の官能の波に気をとられていたガイザックは、ドサリと地面へと体勢を崩してつんのめり、腕で体を支えながら屈辱に唇をきつく噛みしめた。
……………それでも……欲しくて……狂いそうだ。
嘲笑と侮蔑に満ちた表情で、毎回繰り返される言葉。
……いつになっても慣れやしない……。
「餌をもらう時には、ちゃんと教えた芸をしないといけないよ」
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