オレ達の日常

173【完】

「トール、制服。玄関のとこに置いてあるから」

康史はバタバタと用意をしながら、クリーニングに出した制服のありかを教えてくれる。が、とりに行く気が俺には皆無だ。
ダルい。
このレベルだと、俺以外なら死んでるに違いねえ。
まだ、なんか、頭がぼんやりしてる。
ここ2日くらい、激しかったセックスの後遺症なのか、意識がぼやぼやしていて、身体は回復したのだが、脳みそは酸素不足みたいな状態になっている。

携帯を見ると誠士から、帰りに待ち合わせしようぜとメールが入っている。
3年間短いようで、長かったようで、短かったような、そんな感じだ。

「セージが、帰り一緒に帰ろうってよォ」

「わかった。それより、そーんな、ゆっくりしてたら遅刻するぞ。いつものように、遅刻できねーんだからな」
シャツ1枚着てだらだらとコーヒーを啜っている俺に焦れたのか、康史は玄関から俺の制服を持ってきて袋からだして、タグをはずしはじめる。

「ヤスは答辞読まないとだしなァ。修学旅行とかいかなかったけど、高校楽しかった。勉強して、オマエと一緒にいけて、良かった。ありがとな」

「なんだよ、急に。もーっ、卒業式の前に泣かすな。そーいうのは、式が終わってから言うもんだぞ」

制服を俺に渡して、ちょっと怒った様子で俺にかえす表情が、照れてるのか、泣きそうなのか、分かりにくい。
はいと手渡されたスラックスを履いてベルトをとめると、適当にネクタイを結んでブレザーをひっかける。
「卒業式くらいは、ネクタイちゃんとしろよ」
笑いながら康史は俺のネクタイをきっちり締める。
柄じゃないんだけどな。
苦しくなって、ネクタイを指で解きたくなるが、じっと睨まれる。
「少しはガマンしろよ。」
「へーへー」
ペッタンコのカバンを手に持つと、俺は玄関に向かう。
「ちょ、と。トール、置いてくなって!」

慌てて制服をととのえて、カバンを手にして追いかけてくる康史の足音を聞いて口許が緩む。

先のことなんざ、わかんね。
だけど、この日常が、ずっと続いていくように。
俺達の道が続いていく限り、それを守っていきてえ。

俺は振り返って、玄関まで慌ててやってきた康史に笑いかける。

「忘れモンした」

顎へと手を伸ばして綺麗な顔を、じっと見返し唇を合わせチュッと吸い上げる。
「……行ってきますの、チューな」
ちとだけ、気恥しくなって照れながら呟き、勢いよく玄関を駆け出す。

今日は、いい天気だ。
Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-