オレ達の日常

158

目を覚ますと抱えて眠っていたはずの康史が居なかった。
飯でも作りに行ったかなと起き上がり、バリバリと頭を掻く。
ちゃんと身体を拭いてはくれたみたいだが、それでもシャワーでも浴びるかな。
俺はバスタオルを手にして、廊下に出ると、康史以外の気配がする。
誠士でもきてんのかと、あまり気にも止めずに浴室に入る。
あったたかいシャワーが気持ちよくて目を細める。
腰とか流石にダルイし、なんか寝違えたみたいに調子悪いし、ちんこは引っ張られて皮が切れてんのか、ヒリヒリしみる。

俺だって、流石に無敵じゃねーんだけどな。
身体を洗って、全身を濯ぐとゆっくり息を吐く。

ま、康史に好き勝手されんのも、べつに悪くねーんだけど。

脱衣場に戻って、持ってきたバスタオルで身体を拭う。いつも全裸で出てくと誠士は嫌がるので、引き出しからスエットのパンツだけを履いて、頭を乾かしながらペタペタ歩いてリビングへ向かう。

「ヤス、メシくいてェな」
「ちょ、トール、風呂入ったら、足までちゃんと拭けって何度言えばわかるの?!」
さっそくお叱りにあって、リビングを見ると士龍となんか怪我してる虎王が並んで座っている。
「お、シロ、いらっしゃい!」
後ろで床を拭っている康史を気にせず、俺はリビングのテーブルへとつく。
「トール君、久々だね。今日は報告があって、きたんだ」
相変わらずふわふわした表情の士龍は、マイペースに俺に声をかける。
久々といっても、一週間くらい前にも士龍たちはここにきたんだけどな。
「そうか。結婚でもするのか!?」
報告と言えばこれっきゃないなと問い返すと、首を軽く振る。
「まあ、それもそのうちあるかもなんだけど。えーと、とりあえず、もう、報復とかするヤツらいないから、ヤッちゃん自由に出歩けるよってことをね。言いたくて」
「お、そうなのか。そりゃ、安心した。どうしたんだ」
「小倉派を、こないだ俺らが潰したんで。」
「あ、それでタケちゃんが、そんな怪我してんのね」
俺はようやく理解出来たという表情をすると、大したことないと、無愛想に返される。
兄弟でも似てないもんなんだな。
「これから、ウチのガッコのテッペンは、シロウなんで。シロウが、報復禁止令だしたから…………」
無愛想な虎王は、ボソボソと説明する。
「ちょっと、めんどくさいんだけどね。まあ、めんどうなことは、たけおたちがしてくれるから」
ニコニコと笑う様子が、昔の面影を残していて可愛らしい。
とりあえず、長い間続いた東高とのいさかいは休戦ってことか。

「ねー、トール君。チクビにピアスしちゃってるんだね。痛くない?」
士龍に指摘されて、俺は上半身裸だったことに気がついた。

「そんなの、いてえに決まってるっての」

まあ、そこより痛いとこも空いているんだけどな。
俺の言葉に、やっぱりそうだよねーと士龍はしみじみとつぶやき、じいーっと乳首を凝視するので、なんだかとってもいたたまれなくなって、頭に引っ掛けていたタオルを肩にかけて乳首を隠す。

「ンなに見るなよ。シロ。なんか、ん、テレる」

「ちょ、トール君!そこ、テレるじゃなくない。テレるの?それ」
「翻訳すると、恥ずかしいだな。シロもだけど、トールも激しく日本語不自由だから」
康史が思わずといったていで、会話に割り込んでくる。
不自由同士の会話ってことか。
それは会話なりたたねーじゃねーか。
いや、俺のがシロ以下なのか。
視線をさまよわせると、テーブルに突っ伏して虎王が身体を揺らして笑っている。
こいつ、結構笑うんだな。
「昔の方が、この2人の会話ひどかったけどな」
思い返すように康史が言うが、あまり覚えてない。
記憶力はいいんだけどな。
「そうか?」
そんなに、おかしい会話してたかな。士龍とはかなり通じあってたように思ってたんだが。
「たとえば、宿題の話をしていて、シロがたぶんもう授業中にやり終わってるから、宿題なんかにはしないよって言ったのを、トールはヤル気ないと思って、俺も宿題なんかはやらねーとか言ってて、ふたりで分かりあってるつもりになってるとか。そんなんばっかだ」
「えー、そうだったかな?!」
士龍は首を横にひねっているが、どうやら思い出せないようだ。
俺もまったく思い出せないしな。
そんな、士龍も東高のトップなわけだし、なにがどーなるか先はわからないもんだな。
「シロは、タケちゃんといつから付き合ってんだ?」
ふと、2人のことが気になって聞いてみる。
こないだ、助けた時はよりを戻したとこだったしな。
「えー、こないだからだから、まだ2週間くらいかな」
「別れる前は?」
「2日かな……」
「短くね」
歯切れが悪い感じで、士龍はうーんと考える。
正味一ヶ月に満たないのか。今が蜜月か。
「んー、その前一ヶ月くらいセックスはしてたけどねー。付き合ってはなかったから」
微妙な感じで笑うので、なんだか心配になる。
まあ、ソレは最初は俺らも付き合う前にイタしちまったけど。
「セフレ?」
康史が臆面もなく聞くと、士龍は笑ってそんな感じと言う。
虎王の方は苦笑を浮かべて士龍を見ているので、なんか色々あったんだろうなと思う。

「ヤッちゃんたちは、いつから?」
士龍の問いかけにどう答えようかと、俺は思案していると、康史が横から割ってはいる。
「夏休み。トールを不意打ちで襲って監禁して強姦しちゃった」
カラッと笑いながら平然と康史が言うので、士龍たちも半笑いだがかなり引いている。

だよな。

「ヤス。それ聞くと、すげえ、俺、弱くない?」
「飲み物に媚薬まぜた上で、後ろから殴って、対クマ用のスタンガン使ったけどね」
「ヤッちゃん。絶対、殺しにかかってるよね、ソレ」
「クマ用だったのか…………」
「だって……普通のじゃ、きかなそうだったし……」
「クマ用…………」
虎王は、机をバンバン叩いて笑っているようだ。

俺は新たな真実に、激しくショックを隠しきれなかった。



「やだなァ、ホンキにしないでよ。クマ用とかは、さすがにウソだからさ」
へらりと笑いながら、本気で肩を落とした俺に康史は宥めるように背中をたたく。
「まあ、それくらいのモノがなくちゃ、自分のモノにはできないと思ってたけどね」
康史の言葉に、少し士龍は驚いた表情を浮かべて首を傾げた。
「昔から、トール君は、ずっとヤッちゃんのことしか見てなかったのに?」
不思議そうな顔をする士龍が、たぶん正しいのだろうと思う。
それは、俺が1番分かっている。

凶行をする前にもしも言ってくれてたら、多分だが、俺はOKしてたという自信はある。
普段の俺の態度やおこないが、康史を凶行にかりたてたので、俺にも責任はある。

「岡目八目って言葉知ってる?」

聞かれた士龍は、意味がわからないのか首をひねる。
俺にもわからない。
「オカメ納豆しかわかんねー」
「実際、本人にはわからないことっていっぱいあるんだよってことだ」
康史はそう言うと、俺の肩を軽く叩く。
「ってわけで、俺は、卑怯な手を使ってコレを手にいれたわけだ」
「別に欲しければ、卑怯な手でもいいんじゃない。イヤなら、逃げるだろうし。ましてや、トール君だし」
少し考えながら告げる士龍は、康史に笑みをつくる。
「…………俺も、コイツを脅して手にいれた」
ボソボソと、虎王が言いにくそうに話し出す。
あ、だから、士龍が歯切れが悪かったんだなと、理由がわかる。
「そうなの?!」
康史が驚きながら、ココアを入れ直し始める。
「んー。まあ、そうなんだけど、俺も脅されたフリしてたからなー。別にイヤなら逃げたし」
「なんで、フリしてたの?」
「なんとなく、好奇心」
言い出す士龍は、ちょっといたずらっぽい笑顔になる。
「そしたら、なーんか、ハマッちゃってさ。…………ンー気づいたら好きになってたんだよなー」
「軽ッ」
「体からってのも、アリだよね?」
素直に言う士龍のあっけらかんとした様子に、ちょっとばかり心配にはなるが、本人たちが幸せそうなのでヤボはいわずにそうだなと頷いた。





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