オレ達の日常
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免許センターで、免許証を受け取ってからバイクで隣の市の駅前に向かう。地元じゃなくて、隣の市でデートらしい。
ちょっとだけ記憶するのに頭を使ったので、疲労感は半端ない。
誕生日祝いか。なんだかんだ、康史はこれまでちょこちょこそういうことしてくれたよな。
俺は康史にしたことがなかったけど。今年の康史の誕生日はちゃんとお祝いしてやんなきゃな。
免許センターは、隣の隣の市にあるので駅前までかかっちまったな。
早くいかねーと、康史を少しでも1人にしちまうのはなんだか怖い。
せいた気持ちのままで、駐車場にバイクを止めてメットをしまって、待ちあわせ場所に急ぐ。
待ちあわせた、ネコの像の前に立っている康史はそれだけで絵になるから、すぐ分かる。
幸いにも誰にも絡まれてはいないようだ。
1人でいたら、勧誘とかナンパとか喧嘩とかいろんな目にあうからな。
「ヤス、待たせた」
小走りに駆け寄ると、康史は俺を見上げて嬉しそうに手を振る。
「免許の方は、勿論ゲットできたんだよな」
「おー。慣れない頭使ったから疲れた」
ぐったりという表情を浮かべると、軽く胸をどんとたたかれる。
「.....おめでと。じゃあ今日は両方の祝いだね」
康史は嬉しそうに、俺のジャケットのポケに手を入れる。
ポケの中で手を繋ごうという合図だ。
俺もポケに手をいれて、康史の手を掴んで握りしめる。
「渡したいモノがあるから、店にいこうか。取り置きしてるんだ」
康史は俺の手を繋いだまま、グイグイと引いてショッピングモールへと歩き始めた。
ショッピングモールにもあまり入ったことがないが、入ったことがないような店にいく。
店員もシャレた感じの人が多くて、なんだか浮いてるなとは思う。革ジャンと、いつものチノパンにシマウマの迷彩のシャツとかできたが、失敗したかな。
店員に連れられ、フィッティングで渡された服に着替える。
渡されたのは、黒いスキニーと灰色の厚手のニットと、少し薄手のモカカラーのシンプルなスプリングコート。
俺じゃ選ばない風合いの服に袖を通すと鏡に映る自分は、少しだけいつもより大人っぽくみえる。
いつもらガキくさい服を着ているわけではないが、康史が選ぶとこうも差がでるもんか。
フィッティングを出ると、すぐさま店員が駆け寄ってきて俺を見上げて笑みをみせてくる。
「お客様、身長が高いからかなりお似合いですね。どこかのモデルさんかと思いましたよ」
鏡をみやり、笑みをはりつける店員を見下ろすと、ビクッと身体を震わせる。
ビビッてんのかな。
「ん、やっぱりトールが着るとカッコイイね。着心地はどう?きつくない?」
康史は、店員の裏から顔をだして嬉しそうに眺めてくる。
「ああ、ピッタリだ。だけど、こんな、イイのかよ?」
ゆるくもきつくもなく、ニットの生地はあったかいし丁度いい。
「誕プレだからね。それに、こんなカッコイイトールを連れて歩けるのは、俺得でもある。支払いしてくるから待ってて」
康史の後ろ姿を見送って、着ていた服を手提げで渡される。荷物はロッカーにいれとくかな。
ふと夏休みに服をプレゼントされたことを思いだす。
男が服をプレゼントする理由なんとか、言ってたっけ。
まあ、それもまた俺には新たなプレゼントかもしれねーか。
戻ってきた康史に耳元でありがとうと囁くと、首筋を赤くして照れる。
ほーんとに、コイツは可愛いな。
ポケットからクリスマスに貰ったネックレスを出して引っかける。
俺の持ち物が全部康史のものに埋め尽くされる感覚。
こーいう店に入っても、この格好なら違和感ねえよな。
「あのよ、ヤス。オマエの誕生日、おぼえとけよ。倍返ししてやる」
「ぶは、トールにすごんで言われると。なんか別のことに聞こえちまう。摩訶不思議」
下から見上げて満面の笑みを浮かべる康史に、俺はゴクリと喉を鳴らす。ここで人目がなけりゃ、抱きしめたいとこなんだが、一応自重しとく。
「んー、トールの顔がエロい。もー、そんな顔されると我慢できなくなるんだけど」
俺の心を読んだのか、それともまったく読み切れてねーのか、康史はそんなことを言うと俺の腕を引く。
「何言ってンだよ。あーと、夕飯どーすんだ?」
「勿論予約してるに決まってんだろ」
テンプレ通りの言葉に、思わず俺は吹き出す。
ったく、コイツには抜かりはねえな。
この分ならホテルも予約してるとか言い出すな。コイツは。
「メシ食ったら、速攻帰るぞ。いま、明日立てねえくらいにオマエが欲しいわ。俺」
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