オレ達の日常

126※sideY

記憶を失う前の情報はほぼ皆無で、とりあえず去年の冬は真壁か小倉かが来年のトップだと言われていたのはなんとなく覚えている。
東流もネタにされてて、狙われるから気をつけてって、誠士に口をすっぱくして言われていた。
勝手に自分のとこの派閥争いに東流を巻きこまないでくれとか、思っていた記憶がある。

「うわー、やっぱしヤッちゃんの部屋オシャレ!」

怪我してる癖に元気なヤツだなと思いながら、士龍たちを部屋にいれて、応急処置はしなくちゃと救急箱を取りに行く。
そのまま病院搬送しようかとも思っていたのだが、近くの病院は張られていたら困ると思いわざと避けた。
まあ、士龍の実家は病院なんだし、いざとなれば親父さん呼び出せばいいだろうという算段もある。

「シロをソファに降ろして。とりあえず止血とかしなくっちゃなんねーし」

赤毛の恋人さんに指示して、救急箱をテーブルの上に置く。

「貫通はしたみたい。弾近くにおっこてた!」
ちゃんと拾ってきたのか、血まみれの銃弾を見せる。
落ちていたらDNAとか調べられたかもしれないのでいい判断だ。床は軽く拭いてきたけど、リノリウムとかの反応調べたらバレそうかな。

「あれほど、チョッキ以外のとこは気をつけろって言われてたけどな。聞いてなかった?」
「んー。たけお見たら、ワーッて頭に血がたまっちゃった」
「血がのぼる、だよ」
昔よりは日本語は使えているが、やっぱりなんとなく怪しい。
教えればちゃんと覚える頭のいいやつなので、ちゃんと指摘する。

「たでえま!!」

勢いよく玄関の開閉音がして、東流が大股歩きでリビングへと入ってくる。
「トール、ちゃんと2人を送り届けた?」
「おーう。それよか、シロ、大丈夫か?」
東流は士龍のほうに歩み寄り、怪我してる脚をそっと掴んだ。
怪我しなれているから、具合は俺より東流の方が見慣れているだろう。
俺は東流に士龍を任せると、女装のままだということに気がついて、洗面所へと向かった。

それにしても意外だな。士龍が男と付き合っていて命懸けで助けたこともだが、なんだかふたりには溝みたいなものを感じる。

顔を洗ってすっきりすると、俺はキッチンで暖かいココアを入れはじめる。
怪我してるのにコーヒは良くないような気がするし。
カップに4人分入れて、テーブルへとはこぶ。
折角なんだしもっといちゃいちゃしてもいいんだけどな。
まあ、やっぱ俺らがいると気を使うよな。

「落ち着いた?飲みなよ、ココア。あったまるよ」
「ありがとう……」
赤毛君は微妙な表情のままココアを飲んで、ひといきつく。
なんだ、なんだかラブラブな空気じゃないな。

「なんてツラしてんだよ、たけお」
士龍は東流が消毒や包帯を巻いたのか、手当を終えて、痛めた足をひきづりながら当然のように赤毛君の隣に腰をおろす。
ああ、東高の富田たけおって言ってたな。誠士は。

「タケオってんだ?結構でけーな、シロの恋人は」

東流は多分たけおくんの身体を眺めて、さっそく強さを測っている。
いつも思うのだが、東流目には強さを測る機械が仕込まれているに違いない。
まあ、1度戦ってるって言ってたし、わかってはいると思うんだけどな。
「あ、と…………元、だけどな……。……フラれたから。えっと、俺は富田虎王」
肩を落として虎王くんは、ちらちらと士龍を伺うように見やる。
あれ、恋人じゃなかったんか。元っていうと……別れてたのか。フラれたってなあ。

不審な目を士龍に向けると、士龍は決意したように拳を握りしめ強くいった。

「たけお、よりを戻してくれ」

「いいのか…………弟だぞ、俺……」
虎王くんの言葉に思わず東流が声をあげた。
「弟なのか?!」
似てない。
まあ、ちょっとばかり彫りは深めだが、士龍ほどのイケメンではない。
名前も違う。

「とーちゃんが一緒なんだ。…………だから別れたんだけど」
士龍は東流にに説明をしたあとで、虎王くんの肩をぐいと掴んだ。

「とーちゃんから、もう何も奪えないと思って、別れたけど、とーちゃんがオマエを助けないから、俺が貰うことにした。別れるって言ったのは謝る。だから……」

お、っとこれ以上は、2人のプライバシーだよね。
俺はちらと東流を見やって、ソファから席をたち、キッチンに向かう。

兄弟か。

それも、また、苦しい選択だったよね。

でも命懸けの奪還は、軽い気持ちじゃできないから。
きっと2人はこれから幸せになれるだろうなと、心から思った。
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