オレ達の日常

97

康史のことは誠士に任せているから大丈夫として、まあ、この数で報復なあ。
俺は今、教習所の駐輪場からの細い路地裏で、10人前後の東高のやつらに囲まれている。
見たことがない連中で、いつもくるメンツではないようだ。
「あ?ナニ?オマエらの制服みっと、いま腹立って仕方ねーんだけど。怪我する前に、そこどけよ」
教習所の時間は余裕をもってきたが、あんまり長引きたくなくてしっしと手を横に振る。

「金崎のこた知ったことじゃねーが、やられッぱなしはメンツにかかわんだよ」
赤い髪のわりと身長の高いヤツが、俺に殴りかかってきたので、とりあえず脚をかけて転がし、腹部を踏み付ける。
「タケちゃん!!よくも、ハセガワァ!!!」
子分らしい奴らが一斉にかかってきたが、いつものヤツらよりは動きがよく強そうだ。
軽くいなしながら、ひとりづつ地面に殴りつけて沈めていく。
タケちゃんとやらは、すぐに起きあがり俺に襲い掛かってくるので、回し蹴りを食らわせて壁にたたきつける。
こいつが一番いい動きだな。まあ、ボスなんだろうけど。
「多勢に無勢とか、卑怯なんじゃねーの?俺の大事な相棒を、ひでえ目にあわせたのによ」
抑えがきかなくなり、グシャグシャと男達を殴り倒していく。
やべえな。
そろそろ、止めないと。
理性はそういってくれるのだが、感情が追いつかない。
「ミヤ、逃げろ!ハセガワは俺が抑える」
タケちゃんは俺の胸元にタックルをくらわせて、その間に子分どもを逃がす作戦に出たようだ。
あー良かった、人殺しにはなりたくねーしな。

俺は感情の行き場を変えて、タケちゃんとやらを胸元から引き剥がして、急所にはならない腹部をゴツゴツと殴り始めた。

ふと気がつくと、路地からゆっくりと歩いてこちらに近づいてくる長身の人影かある。
加勢がきたか?それにしちゃあ、戦意や敵意はまったく感じない。
「誰だ?」
影は近寄ってきて、金髪と康史とは違う感じの男らしい美形が立っている。
目元はタレ目で、身長は俺より少し高くガタイもしっかりしている。戦意はないが、強さはかなり強いということがわかる。

「こんちわ。ウチノ子連れ帰りにきたんだわ」

この場にそぐわない、のほほんとした口調で俺に臆せずにいう。相当自信があるのか。
よく見ると、相手は東高の制服を着ている。
やる気なら、また返り討ちにするけどな。
「あー?コレ?」
ぶらぶらと吊る下げた意識がほとんどなさそうなタケちゃんとやらを見やる。
力づくで取り返すなら、やってみろ。と、思う。
「オマエ、東高?」
「そだよ」
軽く言葉を返す金髪には、まったく戦意も敵意もみえない。
俺をふわふわとした笑顔で見返して、まるで返してといえば返してくれるとこころから思っているようだ。
なんだ、こいつは。
「……俺、今すげえ、東高の奴等に怒ってるンだけど……」
簡単に返すわけにはいかないと告げると、金髪は男らしい顔を少し悲しそうにゆがめて、
「知ってる。えっと、ヤッちゃんにひでえことされたんでしょ」
康史のことを、ヤッちゃんと呼ぶのは、幼い時の知り合いと俺の家族だけだ。

こいつは、俺を知っている?
俺はこいつを知っている、のか。
金髪の綺麗な、光があたると少しだけ緑に光るビー玉のような目には、ひどく懐かしい気持ちになる。

「……オマエ、誰?」

むかし、康史と同じくらい綺麗で天使のような……顔も身体もごつくはなってて面影はまったくないけど。

きっと、そうだ。
金髪は俺の目をじっと見返してふわりと笑みを浮かべる。
「小学校で同じクラスだった、シロだよ、トール君。覚えてるかな?」
そうだ。
こいつは、橘士龍だ。
康史より身長は低くて色白で、クォーターとかだから金髪で、絵画からでてきたような天使だった。
見る影がないのが、非常に残念だ。
なんで東高なんだ。
小学5年からのダチで、よくイジメにあっていた。
帰国子女で日本語は怪しかったけど、すごく頭は良かったのは覚えている。たしか、康史より勉強はできたはずだ。

「シロ……?すげえ、おっきくなったな……」
そういうしかないだろう。
まあ、普通にすごいイケメンだとは思う。
「おー、いちごみるくいっぱい飲んでるしねー」
ふわふわした緊張感のない口調はらしいなとおもう。
いちごみるくって、すげー甘ったるいヤツだよな。
よく飲めるな。
「そっかァ、あ、シロ、コレ返す」
手にしていた意識のない、赤い髪の男を、士龍の方に放り投げる。
「アリガト。ゴメンネ、ウチノ子たちさ、今の3年にオマエ潰したらトップにしてやるって言われたらしくって」
「トップなんて人にさしてもらうもんじゃねえんじゃねえか」
「だよねェ」
同意して、士龍は転がったタケちゃんと呼ばれていた男の傷の具合とかを確認している。
たしか、橘病院の息子だったから士龍にもそういう知識があるのかもしれない。
やりすぎちゃったかもしれないな。
康史をヤッた本人じゃないわけだし。
「……ちっとそいつヤりすぎちまった……そいつに何かされたわけじゃねえんだが」
「昔から、トール君はヤッちゃん大事だからなー、トール君も東に来ると思ってたケド」
もしかして、士龍は俺らが東高にいくと思ってたから東高にいったとか?
まさか、な。
士龍は中学校に入る時に親が離婚したて引越ししてしまったのだ。
「シロは引っ越したから、中学校は別だったもんな、ちと受験頑張った……」
勉強しなかったら、俺は多分東高に行くくらいのレベルだ。
「ヤッちゃんと付き合ってるの?」
東高でも知られているくらいの話らしい。
まあ、だから康史が拉致られたわけだし。
「おう……、すげえ大事にしてたのによ……」
「……卑怯なコトしてスマネェな」
士龍は、自分が悪いわけでもないのに俺に頭をさげる。
同じガッコってだけで、士龍のせいでもない。
「シロがしたわけじゃねえし………ヤスに痛ェ思いさせたくねえから、ヤスに突っ込んだことなかったのによ……。他のやつにやられるなら、気にせず突っ込めばヨカッタ」
まあ、させてくれるかわかんねーし、べつに俺にはヤリたい欲求はあんまり大きくなかったわけだからいいんだけど。
康史の初めてなら俺がなりたかった。
思わず拳を握り込む。
「ぜってえ許せねえ……」
「いままで、セックスもせずに大事にしてたのか……なんて純情…」
「いや、セックスはしてたぜ。俺は頑丈だからさ、俺に突っ込ませてた」
うわっとビックリした表情を浮かべて、士龍は俺のからだをまじまじと見返してくる。
「頑丈だから…って……」
「とりあえず、入院させちまったけどさ、しょうがないよね?報復は俺のがしたいくらいだろォ」
「そりゃ、そうだけどな……、そうだな」
士龍は、すっかり驚いた顔で俺を眺める。
「コイツにもちょっとヤリすぎてすまねえって言っといて。こっちも、ヤスが記憶なくしたり、色々被害あるからさ、八つ当たりしちゃったけどな」
「マジか……記憶とか、やばくねえか?」
心配そうな顔をする士龍は昔と変わっていないようだ。
すっかりでかくはなっちまっはたけど。
「まー、受験は問題なかったみてえだけどな。シロも、東で大変だろうけど、またイジメにあってたら助けにいってやんよ」
よく小学校のときは優しい性格と綺麗な顔をネタにはイジメられていた。
こんな、ふわふわな性格で東高で無事なのか心配になる。
「だいじょぶ、イジメられてないから。いちごみるく飲んでるし、もうおっきーだろ」
自分のからだをひょいと指さしてにっこり笑う。
笑顔は天使のころと変わってない。
「そか、でかくなったもんな。あ、骨は折ってないけど結構なぐっちゃったから、ソイツ看病してあげて。俺これから教習しねえと」
時間を見ると、一単位サボりになっちまったことに気がついて慌てる。

「おー、事故らんようにな」
ひらひらと手を振る幼馴染みに、俺は手を振り返した。

Copyright 2005- (c) 2018 SATOSHI IKEDA All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-