オレ達の失敗

7

タクシーを呼んで、病院に運び入院の手続きをして、荷物を取りにヤスの家に戻ってきたのは既に明け方だった。
セージに話してしまえば、もっと楽だったかもしれないけど、警察沙汰にらしないようにすることで精一杯だった。
「ヤベ、体力、ギリギリだろ、コレ」
かつて無い疲労と痛みに俺はぐらぐらになりながら、裸になって浴室に入る。
汚ねぇ体だ。
拘束されて動けなかったとは言え、散々犯された。
何より許せねぇのは、そんな目にあって悦こんじまった俺自身の身体だ。
体の全部にその痕が刻まれちまったようで、俺の心をジリジリと苛んでいる。
そんなコトくらいで、ヘコむタマじゃねぇけど。
「ッ、くッ」
シャワーを浴びると、ビリビリッと痛みが全身を走り前屈みになって浴室の壁腕をつく。
ケツのあたり、怪我なんか、したか?
設置された鏡に尻を映して俺は愕然とした。
ハッ。
クソ野郎。
ナイフか何かで刻んだのか、ケツ穴に向けて矢印とベンキという文字が見える。
まあ、そーだろーけどな。
こんな身体なんか、そんな価値もねぇよ。
シャワーをひっつかんで、髪を洗い、ガシガシと身体を必死に洗う。痛みなんか感じやしない。
こんな身体、みたら、ヤスが哀しむだろうなと思うと、頭の中は空っぽになる。
風呂から上がって、バスタオルで身体を拭って服を着ると、ヤスの着替えを袋に詰める。
絶対、この身体は隠し通すしかねぇ。たとえ、終わりにすることになったとしても。

病院に戻ったが、ヤスの意識はまだ戻ってない。
頭をやられたから、当然かもしれねーけど。病院の先生には、階段から滑って骨折って頭を打ったと伝えたが、警察を呼ばれてさすがにビビった。
警察にも同じように伝えたが、日頃の行いが悪いからか、ヤスが目を覚ましたらまた事情聴取すると言っていた。
ご丁寧に、それまで監視するのか尾行までつけてきた。
まあ、そうだろうな。
ヤスが目が覚めたらうまくやってくれるだろう。
携帯がなんども震える。
ヤツらは、俺が気を失っている間にメアドと電話番号を抜かれていたようで、何度も何度もメールと電話を繰り返してくる。
病室を出て、俺は携帯の受話を押す。
「うるせェ、何度もかけてくんな、ストーカかァ?」
『生きてた?ストーカとかそんなこと言っていいの?こっちには動画あるし、オマエのいる病院把握してんだぜ』
男の声はあきらかに俺を脅迫しているようだ。
正直、動画とかはどうでもいい。
いつのまに尾行された?
警官ばかりに気をとられてたか。
頭が白くなる。
ヤスが回復するまで、時間かせがねーと。
「わかった、言うこと聞くから」
リンチか、なんかされっかな。殺しやしねーだろうけど。

『物分りがいいね。仲間内でハセガワのケツの具合が評判良くてね。相手を頼まれてやってよ』

あー。
こんな身体、価値なんかねーし。どうでもいい。

「わかった。ヤスがまだ目ェさまさねーから、事情聴取もある。テメェらのことは言ってねーし、誤魔化すつもりだから、待ってくれ」

少しでも時間かせがねーとな。
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