オレ達の失敗 *SIDE Y

20

ぐったりと死んだように眠るトールを眺める。
熱があるのか膚にじっとりと汗が絡んでいる。
輪姦を受けた上に、膚を焼いてそのあとにセックスしたのだ。流石にのトールも精魂尽き果てた様子である。
俺のために、コイツはどこまでしてくれるんだろう。
子供の頃から、目立つ容姿のせいで絡まれやすい俺を守るために、トールはメキメキ強くなっていった。
俺も負けずに体を鍛えたが、トールのその力には勝てる気はしない。
そして、多分もう守ってもらわなくても大抵の問題は自分で解決できるのに、それでも、トールは俺のことになると突っ込んでいく。
「もっと大事にしてよ、自分のことも」
貞操さえ構わず差し出してしまう、その姿に本当に胸が痛くなる。
そして、俺のせいで汚されてしまったのに、そのことを負い目に感じて別れようなんて言い出す始末だ。
俺だって、オマエのためならなんでもできるのにな。
胸に光るピアス。俺が開けたものではない。
でも、ひどく扇情的で似合う気がする。
俺のものだという証に変えたい。
買い物にいきたいが、骨折していて少し面倒な気がする。
……通販しよう。
俺はスマホを手にしてぽちぽちっと押して、柄の彫ってあるカッコイイピアスを選んで注文する。
本当は、手にとって選びたかったけどな。
スマホを置いて、寝顔を見つめる。
周りには怖がられているけど、整った男らしい顔。
一緒にいるといつも見られる無邪気な笑顔。
ほとんどの時間をトールとすごしてきた。
「でも、トールの全部、欲しいなんて思っちゃうんだよな」
俺のものじゃないピアスをつけてることも許せなくなるくらい。
ぱさぱさの灰色の髪を撫で、思わず呟くとトールは片目をうっすらと開く。
「……イーヨ……全部、オマエのだ……」
熱っぽい息の中、俺を見返して笑みを浮かべて答えを返した。
「簡単に言いやがって。俺の趣味知ってるだろ?」
「……あァ?……好きにしてイイって言ってんだよ…」
布団に寝そべりながら、腕を伸ばして俺の首にぐっと絡めて抱き寄せて背中に手を回される。
熱っぽい目で見つめる表情がそそるが、病人に手を出すわけにはいかない。
潔すぎるっていうか……。男前すぎるっていうか。
本当にコイツは……。
「たまんねえや。もー、これ以上俺を煽るのをやめてくれ」
「煽ってねえよ。だりい……。ハラ減った…」
いつもの傍若無人な口調で、ふうっと深く息を吐き出す。
トールの逞しい腕に抱かれていると酷く安心する。
「何食べる?買い物いけないし、ちょっと高いけどピザでも注文する?」
「そうか、動けなかったな」
俺の骨折のことはすっかり忘れていたのか、ちょっとあご先に手をあてて、スマホを手にとるとどこかに電話をする。
ピザとってくれるのかな。
「セージ、俺。」
と思ったら、誠士に電話していた。
「メシ買ってきてくれ」
一言言って電話を切る。相変わらず、傍若無人すぎる。
まあ、誠士だから問題はないんだろうけど、本当に俺と誠士以外はこいつのこれにはついてこれんだろう。
「ピザ高いから、セージに頼めばいいべ」
まあ、そうなんだろうけどな。

「で、仲直りしたのね」
コンビニでしこたまおにぎりやパンや弁当を誠士は買ってくると、仲良くベッドで転がっている俺たちをみて呆れ顔で呟いた。
「仲直り?俺、ヤスと喧嘩してねえよ」
不思議そうに誠士を見返すトールの表情にぶちあたる。
昨日のは確かに喧嘩ではないのだが。
よっぽど腹が減っていたのか、トールはパンを手にして食べ始めている。
「別れるとか別れないとか修羅場だったじゃんか」
「あー、喧嘩じゃねえしなァ。アレは俺の弱気だ。」
パンを両手にもってもぐもぐたべながら、トールは首を横に振ってふっと口元を緩める。
確かに喧嘩ではなかったなあ。
「ヤスは器がでけえから、別れないにした」
いろいろすっとばしすぎたトールの説明に、誠士を納得したように頷く。
誠士もどことなく嬉しそうだ。
こいつは、中二からつきあっているが、あまり裏表がなく付き合いやすい。
人付き合いがうまいのに、どうして俺らとつきあってるのかなぞである。
なんというか、トールのオカンみたいな感じだ。
「そうか。ヨカッタったな。ってことは、独り身は俺一人かよー。このリア充たちめ」
「ヤス、セージに女、紹介しろ」
もぐもぐとおにぎりをほおばりつつ、俺に命じてくる。
本人はその気がまったくなくても、命令に慣れた口調なのである。
まあ、夜は俺が命令してやるからな。
「ハイハイ。そいれじゃあ、足治ったら合コンでもセッティングしようか」
「マジか、うれしいぜ」
誠士はへらっと笑い、機嫌よくトールにメシを食わせる。
さて、明日になったらピアス届くかな。
この調子なら、トールの体もすぐ良くなりそうだ。
俺は別の期待を胸に、誠士のもってきた弁当を食べ始めた。
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