オレ達の失敗 *SIDE S
14
聞き出したビルの地下へ松葉杖をつきながら、康史は逸る気持ちを抑えているのか杖を持つ手を震わせて階段を降りていく。
拉致した男達から廃校で聞き出した話では、この二日間東流はずっと性的暴行を受けているとの話で、すでに正気を失っているとのことだった。
無理にでも止めていればよかったと康史は後悔するように歯をくいしばっていた。慰めようにも、俺にはどうしようもない。性的暴行などものともしなそうだとは思うのだが、同性からの扱いってのはキツイだろうし。
「康史。そんなに焦って階段から落ちないようにしろよ」
思わず背後から声をかける。空手使うのは問題だろうけど、武器は使えないので俺はまるごしだ。
「うるせえ、悠長にしてっれっか」
康史はもどかしさがまさっているのか、松葉杖を乱暴に床につき、防音になっていて重い鉄の扉を開くと側に立っている男達を松葉杖をブンと振り回しで一気に殴り倒す。
「ヒダカ?」
一気に次々になぎ倒されていく仲間たちに、驚き焦ったように臨戦体制に入る男達の体を容赦なく松葉杖でぶちのめしながら、康史は部屋に入っていく。
むっとたちこめるどくとくの臭いと、湿った音が響き、部屋の中心で黒人の男に貫かれながら、泣き顔を晒しながら金髪の男のペニスをしゃぶっている東流が視界に入る。
あちゃあ、マジかよ。想像はしたけど。これは、マジの虐待だ。
康史の背中から怒りのオーラが立ちのぼる。
空気が止まる。
どんよりと涙目で快感に溺れた表情の東流は康史が部屋に入ってきたことに、全く気がついていないようだった。
怒りが増したのか、康史は周囲を取り囲む男達を次々に杖を振り回して殴り倒し、近くへと歩みを進めると、後ろから黒人の男の頭に松葉杖を振り落とす。
ガッツ
「…oh,ouc.....mm」
がくりと黒人の男の身体が床につんのめり、
「……トール、帰るぞ」
康史は、まだ金髪の男のペニスを咥えたままの東流を見下ろす。
黒人の男が頭を抱えて、東流の体を突き飛ばして床に転がると、声に気づいたのか、ようやく顔をあげた東流の表情が一瞬絶望したように凍りつく。
「……ッ、く」
ぎゅっと眼を瞑ると、再び眼を開き眼光に鋭さを灯し、口にしていたペニスをぐいっと噛みしだく。
「ぎゃあああああああ」
口を血まみれにして、いつもの眼光を取り戻すと康史へにやっと笑い返し、立ち上がり振り向きざま蹲る黒人に手錠がついたままの腕で殴りつけると、
淫靡な空気を払拭するように、無敵と言われる身のこなしで手錠で拘束されたまま、
華麗なる蹴りで一気に周囲の男達を床に沈めていく。
なんだ。無敵かよ。
俺は肩を落として目の前の敵に手刀を食らわせてしずめて、もってきたロープで縛りあげる。
今日の俺は荷造り専門家かしら。
「……無理すんじゃねえよ、ケガ人が」
ちらっと康史の足元を見やり、唇についた血を舌で舐めとり凶悪な表情で、襲い掛かる男達を容易に蹴散らす。
「こんなケガくらいで、俺がザコにやられると思ったんかよ……にしても、体力無敵すぎんだろ」
鎖が外れたように裸で手錠をはめたまま暴れまわり始めた東流に目をみはり、性的暴行の被害にあっていたとは到底思えない今現在物理的暴行を加えている様子にため息をつく。
俺は倒れている男達を裸に剥いて、携帯やカメラを没収する。さすがにもう、縄も品切れなので、新しく衣服で紐をつくる。
「うちの大将のエロ動画とか、ドコにあるんかね。まあ、俺らも脅しの動画撮らせてもらうけどな」
スマホを向けて、裸にした男達をひっくり返してにちらばっている玩具をアナルにぶちこんでは、写真と動画を撮影しカメラにおさめていく。
多人数でも二人に太刀打ちできないのか、完膚なきまでに男達が倒れていた。
壊滅状態になった部屋を見回し、俺はテーブルの上に転がっている手錠の鍵を拾うと、疲れきった様子で全裸のままで壁に凭れ掛かっている東流に近づき、腕にかかった手錠を外す。
「大丈夫か?東流」
「セージ、悪ぃな。……巻き込んで」
荒い呼吸で、らしくもなく詫びを吐く東流に、なんだか違和感を感じながら眉を軽く上げて傷だらけになっている体を見やる。
こりゃ、相当弱ってんな。衰弱して、あんだけ暴れられるとか、神経は鋼鉄製か?
「オマエ熱あんだろ。怪我もしてるし、追いはぎしといたから、とりあえず服着とけ」
紐を作るために男達からはがしたシャツをかけてやり、スエットの下を手渡す。
「トール、無茶しすぎ……、あんま心配させんな」
血まみれの松葉杖をつきながら、カツカツ近くに歩み寄る康史に、スエットを履きながら、東流はつっと罰が悪そうに視線を逸らした。
「俺がちっと我慢すりゃあ済む話だったからよ……。オマエが出るまでもねェ話だ」
バチンッ
東流の頬が小気味好く鳴り、康史は松葉杖を握った手をぷるぷると怒りで震わせた。
「勝手なことすんじゃねえっての……」
一瞬、目を見張った東流が泣き出すかに見えたが、すっと視線を落としただけだった。
二人の間に険悪な空気が流れ、東流は叩かれた頬を軽く指で擦ってじっと床を見つめた。
「二人とも、警察来る前に帰るぞ。とりあえず、帰ってから話そうな」
微妙な空気を破って、俺は二人の背中を叩き、地下室を出ようと急かす。
傷害罪でつかまってはどうしようもない話だ。
……俺も痴話喧嘩で、警察に捕まりたくはないっての。
始終無言で、2人は俺の運転するバンで帰宅した。
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